匠の蔵~words of meister~の放送

アベル【洋菓子店 福岡】 匠:安部守さん
2013年06月15日(土)オンエア
福岡市のオフィス街の一角で、洋菓子とキャンディーの店『アベル』を営む安部守さん。「子どもの頃から甘いモノが大好きで、毎日、甘いお菓子に浸っていたかったんですよ」と、地元大分の洋菓子店で働くように。その後、東京の洋菓子店でさらなる修行を行い、27歳で渡仏。フランスの権威あるアメ細工コンテスト『ガストロノミックアルパジョン』で優勝、『大統領賞』を受賞する。「東京、フランスと修行し、様々なお菓子の技術を習得しましたが、最終的にシュークリームに戻ってきました。シュークリームのカスタードクリームは和菓子の餡子と同じで、洋菓子の基本としてあるモノですからね」。そうして帰国後、安部さんは再び東京の洋菓子店でグランドシェフを務め、2010年に福岡で独立。現在は世界が認めた繊細な技術が光るカラフルなキャンディーの他、洋菓子の定番であるシュークリームやロールケーキ、そして、焼菓子などを、保存料を一切使用せず、すべて手作りで提供する。「お菓子の材料は水や小麦粉など、料理とは違い形がありません。その形のないモノを形にしていく作業がとても楽しいんですよ。しかし、その形は、例えばフィナンシェは金の延べ棒という意味がありますから金の形に、そして、モンブランは山の形にと、そのお菓子がもつルーツや意味から外れないように心がけています。100年以上も受け継がれるお菓子を発明した人の想いを知ると、やはり簡単に基本から外すことはできないですよね」。そんな安部さんには、もう一つ、お菓子を作る上で大切にしている想いがある。「僕は難しい味作りをしないと決めています。しかし、食べるとすごく味わいのある、素朴なんだけど感動していただける、そういうお菓子となるように考えながら作っています。複合した味の組み合わせや、食べて美味しいけど、何だか分からないというお菓子は最近の主流なんですよね。そんな最近の主流を否定するわけではないのですが、とにかく焼きたて、作りたてを心がけ、さらに旬や素材の質にこだわるなど、決して難しいことをしていないのですが、分かりやすくて美味しいお菓子を作っていきたいんですね。そうしたら、長く愛されるお菓子ができると思うんですよ」。そんな安部さんは、味だけではなく見た目においても難しいことを嫌う。「やはりお菓子は食べ物ですから、見た目重視は何か違う感じがするんですよね。キレイと美味しそうは違います。ピザでもステーキでも焼肉でも、焼き立ては何でも美味しそうじゃないですか。ですから、単純に焼きたてにこだわる。簡単なことなんですよね」。それは小手先の技術から生まれるお菓子ではなく、王道の技術から生まれるお菓子。そんな安部さんの店は、焼き立ての甘く香ばしいお菓子の匂いに誘われて、いつも人が溢れている。「とにかく普通なんですけど、すごく美味しい。最終的には『あそこのシュークリームやロールケーキを食べたら、よそでは食べられないよね』と言われるところまでいきたいですよね。とにかく普通です、僕の中では。普通を目指しています」。今後は「形に残せないモノだからこそ、形に残したい」と、「九州の銘菓となるお菓子作りにも取り組みたいんです」と語る安部さん。その九州銘菓の味は、やはり『普通なんだけど、すごく美味しい』なのだろう。

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