沖縄の伝統工芸品、琉球漆器500年の歴史と伝統を継承する老舗漆器店『角萬漆器』の5代目、嘉手納並豪さん。中国との貿易が盛んであった琉球王国時代の14世紀から15世紀に、中国から伝わったとされる琉球漆器。その製作と販売を手掛け、120年の歴史を誇る『角萬漆器』は、過去に『赤坂迎賓館』に『朱塗山水東道盆』を寄贈、『伊勢神宮』へも漆器を奉献するなど、海や空、太陽や花などをモチーフに、沖縄の風土が表現された数々の良品を生み出している。「琉球漆器の特徴は、献上品として始まったという歴史的な背景から、5センチ四方を1日かけて仕上げる程、緻密なところにあります。そして、漆器を乾かせる為には、温度と湿度が必要なのですが、平均気温22.4度、湿度77%の沖縄は、漆器を作るのに非常に優れた環境なんですよね」。しかし、本土の『輪島塗』『山中漆器』『津軽塗』『木曽漆器』などと比べて認知度が低く、さらに現在は、安価な外国製の漆器にもシェアを奪われつつあるという。「値段で買物をされる方を否定はしません。琉球漆器は500年の歴史がバックにあるので心強いのですが、私共もただ手を拱いているだけではなく、わびやさびなど本土の市場を意識した作品を生み出していかなくてはならないと思っています」。本土の漆器の黒色と違い、中国の影響の強い琉球漆器は朱色が特徴。しかし、そのイメージを縮めるべく、『角萬漆器』では、黒のキャンパスに沖縄の色を入れた漆器を編み出すなど、時代を意識した新しい琉球漆器のスタイルを確立しようとしているという。「前へ前へと進んで行くことは大事なのですが、たまには後ろを振り返り、伝統的な漆器がどういうモノなのかということを意識しなければいけないと思います。そうして、伝統の上に立って前へと進んでいく。沖縄は歴史的に中国と日本の影響を受けてきた稀有な土地ですから、その漆器も中国と日本のイイとこ取りをしながら、ミックスさせることで、さらに新しいモノが出来ると信じています」。その歴史的な背景から、本土と中国からの影響がチャンプルーされている琉球漆器。そうしてイイとこ取りをしながら、500年もの伝統の上に進化し続ける『角萬漆器』の琉球漆器は、本土の漆器、中国の漆器とも一線を画した、まさに沖縄の歴史と風土に育まれた独特の美しさを放っていた。
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