福岡市の閑静な住宅街に店を構え、地元福岡のみならず日本屈指の名店として、多くの人々に愛される本格フレンチ・レストラン「メゾン・ド・ヨシダ」のオーナーシェフ・吉田安政さん。吉田さんは「美味いもんが好きだから」と言う理由で料理人の道を目指し、スイスのホテル学校を卒業後、「ホテルオークラ東京」で、初代総料理長・小野正吉に師事。1970年に福岡で西日本初の本格フレンチ・レストランをオープン。70歳となる現在もオーナーシェフとして腕を振るう傍ら、博多の食文化の向上を目的とした「博多食文化の会」を主催し、その発展に尽力している。「オープン当時は、多くの人がフランス料理はフランス人が食べる食事というくらいの意識しかありませんでしたので、フランス料理を認知して頂けるまでが苦労しましたね。とにかく食べて頂いて満足させる。美味しい料理にどこの国の料理も関係ありませんからね」。そんな時代から、フランス料理を日本人の口に運び続ける吉田さん。その料理の真髄は素材と火にあると言う。「僕は素材と火を大切にします。動物の中で、火に寄って来るのは人間だけ。炙って食べるのも人間だけなんですよね。火加減ひとつで、野菜でも肉でも微妙に味が変わっていくんですよね。ですから、血が滲み出るようなステーキなどは料理とは呼べません。火で焼くことによって汁や脂の旨味が、素材の中を走り回る訳ですよね。それで、必要以上のモノが下へ落ちて、鴨にしても子羊にしても微妙にイイ風味が出る訳です。僕はそれをテーマにしているので、僕の店はフレンチですが、ロティスリー...炭火でモノを炙るという仕掛けをすべての素材に加えています」。フランス料理で、素材を炭火で炙るというのは意外だが、その味を最大限に引き出す為の方法にどこの国の料理もない。そうして、型にこだわらず最良の方法で調理された吉田さんのフランス料理には、人間だけが自在に操ることの出来る、火の恩恵が詰まっていた。「僕たちはプロですから、料理は美味しいのが当たり前。それプラス、帰りに『楽しかったよ』『とってもイイ思い出が出来たよ』『是非、また来たい』と、この言葉をお客様から貰うことが、やはり継続だと思います。美味いだけでは絶対にお客様は来ませんからね。このぐらいの歳になるとね、『オヤジがいねえから面白くなかった』って言われることがあるんですよ。『僕がいたっていなくたってウチの料理...僕の料理は変わりませんよ』って言うけど、それが残念なようで嬉しいんですよね。やはり一皿と私の一声なんですよ。『どうですか』『イイ時間過ごして下さい』という僕の言葉が、料理を美味しくするし、場所の雰囲気を良くしていくんですよね。それは、人間にしか出来ない、誰にも真似できない自分の味付けなんだろうな〜と思います」。人の心を動かす料理は、決して口に美味しいだけの料理ではない。
「メゾン・ド・ヨシダ」の料理が多くの人に支持され続ける理由...それは、ムッシュ・ヨシダのおもてなしの心にあった。「一生賭けた仕事ですから、美味いもん作らなきゃバカですよ。ですから、料理は美味しいのが当たり前で、後はヒューマンなんですよね」。
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