無農薬の野菜などを作る一方、雑穀を使った加工品の商品開発も手掛ける九州有機農業生産者グループ『葦農会』の代表、武富勝彦さん。病気をきっかけに23年間勤めた県立高校経論を退職し、農業の道へ。その後、葦の堆肥を使った循環型農法による古代米作りが、イタリアに本部を置く『スローフード協会』に認められ、2002年に日本人初の『スローフード大賞』を受賞する。「スローフードとは、ファーストフードに対抗して生まれた言葉なのですが、それは、ただ単にゆっくりだらだら食べることではなく、何気なく口に運んでいる食材について、もう一度見つめ直そうという意味なんです」。武富さんが評価された葦の堆肥は、米糠と水を混ぜて発酵させたもの。そこには、海を汚染する農薬や除草剤、そして、化学肥料は一切使われていない。「自分が田畑に撒いたモノが海の水を汚染して、その汚染された海で育った魚を食べて、健康を害するということを許せなかったんですよね。やはり、多くの人の食を支える豊饒の海である有明海や玄界灘を汚すことは出来ませんから、私が出来ることをやっていこう、そして、広めていこうと思った訳です」。そうして、手間隙を厭わず、独自の研究を重ねながら有機農業の道を歩み続けた武富さん。「最初は変な人扱いでした」と笑うが、現在では徐々に若い仲間も増え、その活動は塩作りや醤油作りなど多岐に渡る。「私自身、食べることが大好きなんですよ。ですから、やはり私自身が、自分の手を土につけて、種を蒔く人になりたいと、そういう想いで日々、地に這いつくばりながら頑張っています」。そんな武富さんの役割は、言葉で『スローフード運動』を提唱することではない。農業家として環境に優しい循環型農業をやり続けること。そうして、匠が手に土をつけて蒔いたスローフードの種は、確実に若い農業家たちに広がり、大きく花開こうとしている。「現在、農家の高齢化問題が叫ばれていますが、両親が生き生きと農業に励んでいる姿は大事ですよね。そうして頑張っている農家は、どこも後継ぎに困っていません。後継者たちが魅力を感じる農業をこれからも続けていくとこが、私の役割だと思っています」。
| 前のページ |