匠の蔵~words of meister~の放送

和紙ギャラリー【蒲生和紙 鹿児島】 匠:野田和信さん
2010年07月31日(土)オンエア
伝統ある蒲生和紙で知られる姶良郡蒲生町の、のどかな山間に工房を構え、デザイン和紙を漉きながら、その和紙を自在に操り、ライトに掛け軸にアクセサリー、はては彫刻や版画といったモノまで...様々な独創的な作品を生み出している「和紙ギャラリー」の野田和信さん。野田さんは北国の北海道出身ながら、東京で13年、グラフィックデザイナーとして活躍した後、南国の植物、風土、土着の精神に魅力を感じ、33年前から蒲生町で生活していると言う。「鹿児島の友人を訪ねた時に、楮と水だけで作るシンプルな蒲生和紙に魅了されたのがきっかけで、そのまま、この場所に居ついちゃったという感じですね。北海道の田舎でのシンプルな生活が嫌で、東京に出て来たはずなのに、結局は鹿児島の田舎でシンプルな生活を送っている…。生まれながらの人間性というのは、やはり、そう簡単には変えることが出来ませんね」。そうして、64歳になる今では、毎日畑を耕しながら、悠々自適に創作活動を行っているかのように見える野田さん。しかし、そんな生活は、ある覚悟がないとやれることではない。「好きなことをやるほど大変なことはないですよね。自分勝手にやっているから給料も出ない。そこが普通のサラリーマンと私のような仕事をしている人間の大きく異なる部分ですよね。それでも納得して好きなことをやれるかどうか。ですから苦労も一杯ありますよ」。そんな野田さんは、自らの作るモノの評価は、自分自身ではなく客が決めればいいと言う。「たまたま指宿の旅館に仕事を頼まれた時、オーナーから『まけて欲しい』って言われたことがあったんですよね。すると、その旅館の設計士さんが、『でも作品ですからね』って社長に言ったんですよ。その時、あ〜人が見て自分が作ったモノを作品って思ってくれたんだ。『こりゃめっけもんだな』って。自分で作品とは言ってないのに、間に入った人が『作品ですからね』って言ってくれたことが、すごく嬉しかったですね。自分で作品とは言わなくても、人がそうやって言ってくれるモノを作りたいと思っています」。そんな野田さんのモノ作りのポリシーは、その生活同様いたってシンプルなモノだった。「デザインや使い勝手というよりも、いわゆるモノがしっかりしている。和紙でしたら破けにくいと言ったらイイでしょうか。もちろん破けるモノなんですが、なるべく、そういったキチっとしたのを作りたいっていう、ただ、それだけの想いでしかないですね」。和紙作家にインテリアデザイナー、彫刻家に版画家…人が野田さんを語る時、その肩書きは変幻自在に変化する。肩書きやモノの価値は客が決めればいい。そんな自由に創作活動を行う野田さんの唯一のルールは、ただキチっと作りたいという想いのみだった。

| 前のページ |


| 前のページ |