日田市で大分の名産品・干しシイタケを生産する湯浅十四二さん(72歳)。日田市の品評会で4年連続最優秀賞を受賞した湯浅さんの干しシイタケは、その味と形の良さから高級料亭の引合いも多いと言う。「シイタケは自然まかせで採れるものではありません。地球温暖化の影響で生産は楽ではありませんが、何万個もの椎茸一つ一つに袋をかけて気温の変化から守るなど、手間隙をかけて育てています」。穏かな表情に刻まれた深いシワが、自然まかせではイイモノは絶対に採れないという、椎茸作りの難しさを物語っている。そんな湯浅さんの自宅の床の間には、リボンが色褪せたものから、キラキラと輝く最近のものまで、そんな手間隙の結晶である大量のトロフィーが誇らしげに飾られていたのだが、それでも品評会に出す程のシイタケは、なかなか数が採れるものではないと言う。「品評会に出す椎茸を一箱分採る為には、1万個くらいの椎茸を育てなくてはなりません。やはり一度賞を貰うと、今年も取ってやろうという気持ちが湧いて来るんですよね。親父の代から椎茸を生産している関係で、
椎茸作りに誇りを持っていますからね」。湯浅さんが親父さんから引き継いだもの、それは味だけではない誇りもだ。「量ではなく良い品物を、消費者の喜ぶような品物を作りたいと思っていますので、椎茸は無農薬で生産しています。農薬を使った椎茸を食べても、直ぐにどこか悪くなる訳ではありませんが、やはり何十年も経つと、どこかに出てくると思いますからね。ですから自分で食べて良いものしか売りません。それが基本です」。一時は中国産の椎茸に押されていた国産椎茸だが、今は安心・安全を求める消費者が増え追い風が吹いているそうだ。「いつまでやれるか分かりませんが、常に努力です。あとは気持ちです。今年の品評会の後に座談会があったのですが、私が椎茸に『丸くなれ丸くなれ』と声をかけているというと、皆笑うんですよ。確かに椎茸は生えてきた時に、ほぼ形が決まりますから、それから丸くなるというのは饅頭ではないので有り得ないんですよね。しかし、どういう訳か『お宅の椎茸は丸く揃っていますね』と感心してくれますよ」。もちろん声をかけたから椎茸が丸く育った訳ではない。湯浅さんが、声をかけるほど愛情を持って育てているからこそ、その愛情に椎茸が応えているのだ。
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