色えんぴつ画の世界で、独自の画法を確立した色えんぴつ画家、前田嗣義さん。何十種類もある色えんぴつを使い分け、重ね塗りすることで、まるで写真のような質感や深みを表現。教室も主宰し、多くの人に色えんぴつ画の楽しさを伝える活動も行なう。「幼い頃から絵を描くのが大好きで、毎日、縁側で色遊びをしていました。その時に、赤、青、黄の色の三原色の法則を学び、それに黒を加えることで、より色に深みが出ることを知ったんですよね。すべては、そんな子どもの頃の遊びから始まりました」。そんな前田さんは以前、新聞社の報道カメラマンとして活躍。当時の経験から、カラー印刷の技術と、カラー印刷の工程などを取り入れた描き方を考案する。「私が働いていた頃の写真修正というのは、針のようにとがった鉛筆を使ってフィルム上で行なっていたんですよね。そこで、そんな写真修正技術を応用し、色えんぴつの芯の先を細長くとがらせ、軽く塗り重ねていくという方法を、この画法に取り入れたというわけです。思った色を出したい場合は、重ねる色の順番を守ることが大切なんですが、私はその順番を色えんぴつの色番号で覚えています。そうすれば微妙な色の違いも差別化することが出来ますからね」。そうして仕上げた作品を、前田さんは長崎市の『コクラヤギャラリー』で発表。大きな反響を呼ぶことに。「その後、習いたいという人が増え、教室を始めるようになりました。そこでは生徒さんたちに色番号で教えていますので、どんな方でも描けるようになりますよ」。そうして、現在も長崎市内、時津町、長与町で全8クラスの色えんぴつ画教室を受け持つ前田さんは、生徒にまず楽しむことから教えるという。「何事も楽しめなければ上達しないですよね。色えんぴつ画は油絵や水彩画などと違い、色えんぴつと画用紙などがあれば、誰でもどこでも気軽に楽しめるモノですから、やはり楽しむことが一番大事だと思います。そして、その後はもう自分でどれだけ絵を描くかだと思います。たくさん描いてきた人には敵いませんからね」。そんな前田さんは、色えんぴつ画は決して難しく考えるモノではないという。「子どもたちは私の言うことを素直に受け入れてくれますから、覚えるのがとても早いんですよね。大人は勝手に、難しいモノだと考え、自分は絵が下手だと思ってしまいますから困ります。ですから、大人の皆さんには、『子どもの頃から漫画とかお人形さんとか描いていたでしょう。それをずっと続けていれば良かったんですよ』と言っています。例えば線1本でも、書道と一緒で慣れないとキレイに描けないですからね。でも、慣れたら、どんな方でもス〜と描けるようになるんですよ」。『努力に勝る天才なし』とよく言うが、どんな天才でも努力なしに上達なんてするわけがない。何事もやはり上達するための近道なんてない。「やはり努力です。努力をやめなければ絶対に描けるようになりますよ。私が絶対に描けるように教えていますから」。多忙なスケジュールをこなす中、長崎以外の東京などの地でも個展を開催したいと語る前田さん。現在80歳、まだまだこの先も、その色えんぴつ画で、多くの人を魅了し続けることだろう。
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