俳人・松尾芭蕉が『奥の細道』へと旅立った頃と時を同じくする元禄2年より、佐伯の土地で味噌や糀を作り続ける老舗糀屋『糀屋本店』の9代目、浅利良得さん。洗米から出糀まで、先祖から受け継いだ昔ながらの製法で、全ての工程を手作業で行い、2007年には江戸時代の古い書物を紐解き、いま大ブームとなっている『塩糀』を復活させる。「2007年以前は糀自体が下火で、糀を扱うどの店も暗い話しかありませんでした。そこで、店を畳まない為に何か出来ないかということで、手当たり次第調べたところ、江戸時代の書物に、塩を糀に混ぜる『塩糀』のことに触れていたんですよ。そうして、試しに作った『塩糀』を魚や野菜に絡めて食べてみたところ、糀がたんぱく質や糖を分解し、旨味成分を引き出してくれることが分かったんです」。そうして、簡単で美味しい、全国の糀屋にとって起死回生の万能調味料になるかも知れない『塩糀』の製造方法や『塩糀料理』のレシピなどを本やブログで積極的に公開。健康志向の人の間で口コミで広がり、各地で糀が品切れになる店が相次いでいる。「皆さんから『何でそんな売れるモノを作り方を教えるの』とか『特許や商標を取ったのか』と言われましたが、それを取ったところで、そんなモノは一時的なブームにしかならないんですよね。結局、味噌や醤油などが長く日本人の食文化として続いている理由は、皆が作り方を知っているから。そして、誰もが料理に使えるからだと思うんですよ。ですから、私たちは『糀』を使うという日本古来の文化が残っていく形を作りたかったので、レシピを全部公開したり、こういう風に作るんですよっていう提案をしたりして、ユーザーを増やしていったという訳です。今では『塩糀』を買いに来るお客様よりも、『糀』を買いに来るお客様の方が、圧倒的に多いんですよね」。目先の利益に惑わされず、もともと日本にあった『糀』の文化を復活させたいと願う浅利さん。その眼差しは、浅利さんが思い描く『糀』の未来のように、とても輝いていた。「ブームと言われていますが、この先100年、仕事を長く続けていくことが出来る為に、『糀』を使う人を増やしていくことが大事なんですよね。そうすると、『糀』はずっと無くならないじゃないですか。それだけのポテンシャルを『糀』は持っていると信じていますからね」。
| 前のページ |