約400年前から庶民の器として発展してきた波佐見焼の窯元「一真陶苑」の陶工・真崎善太さん。かつて世界第1位と2位の大きさを誇る登り窯を擁し、現在も100以上の窯元がひしめく波佐見地区の中で、真崎さんは白磁に鉋で手彫りを施したシンプルな現代的な印象の器などを制作。光にかざすと模様が透けて見えるそのシリーズは特に女性ファンが多いと言う。「鉋でデザインした作品を制作するのは、全国的にも珍しいと思います。私は下積み時代の12年間、ずっと鉋を持って仕事をしていましたからね。当時は面白くありませんでしたが、それが今生きているという感じです。やはり下積みは大事ですね」。下積み時代は土を成形する仕事に従事し、知り合いの勧めにより、陶工の道を目指したという真崎さん。その全ての作品には必ずテーマがあると言う。「モノ作りをする人間は、自分の作ったモノを説明出来なくてはいけません。お客さんに『この作品はどうやって作ったのですか?』と聞かれた時、『なんとなく作りました』では、納得して貰えませんからね。形あるものには、必ず奥行きがありますから、その奥行きを制作する人間が掴んでいないと、モノ作りなんて出来ませんよ」。そんな真崎さんが作る作品に共通するテーマは情緒。機能性の中に、必ず情緒が感じられる作品を制作していると言う。「今の世の中、使い捨てのプラスチック製品や発泡スチロール製品のコップなど機能性のあるモノはたくさんあります。そんな中で我々が作っていかなくてはならないモノは、やはり情緒ある作品だと思っています。作品を通じてモノを大切にする心や美しいモノを楽しむ心など、昔から日本人に受継がれてきた伝統を今に伝えられたらと思っています」。そんな真崎さんは、自らの作品に、決して高い値段を付ける事をしない。そこには、江戸時代から庶民の器として、人々の日常に小さな幸せを提供してきたという波佐見焼の陶工としてのこだわりがある。「高い値段を支払い洋服でも買えば確かに気分も変わるでしょうが、焼き物なら千円、2千円で小さな幸せを買う事が出来るんです。器が替われば気分が変わり食事もまた変わります。私たちは、そうやって小さな幸せを提案しますから、小さな幸せを買っていきませんか?とお客さんに訴えているんです。僕らは小さな幸せしか提供出来ませんけどね」。江戸時代から庶民の器であるべきだという波佐見焼のポリシー。食文化と共に姿形だけは変わってきたが、そのポリシーだけは変わらない。
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