有名な「蒲生の大楠」が鎮座する鹿児島県蒲生町。何百年も昔からこの場所にある、「蒲生の大楠」に見守られ、伝統ある蒲生の和紙作りをただ一人受け継ぐ、「蒲生和紙工房」の小倉正裕さんは、380年続いた紙漉き場を師匠から受け継ぎ、一人、黙々と紙を漉き続けている。そんな小倉さんは、「基本的には、今のスタイルっていうのを変えようとは思ってないです。」と、頑なに伝統の和紙作りにこだわっている。「昔からある技術っていうのを、そのままやって行くっていうのが僕のする事だと思っているので。もっと多くの人に知って欲しいと思うと、色々形を変えてしまいがちだと思うんですけど、今、僕に評価を下してくれている色んな人達っていうのは、昔からの仕事を求めている人達だと思うんですよ。ですから、出来るだけ今の形を変えずに、やって行きたいと思っています」。小倉さんは、そんな和紙作りは能率が悪いと自ら話す。しかし、少なくても必要としている人達がいる以上、変える気はないそうだ。そして、小倉さんが歩むその道は、新しい事へのチャレンジより難しい道でもあった。「新しく生み出そうと思っている事はですね、昔からやっている事に比べて、おぼつかない事だという実感が度々あります。だから、自分が変わるよりも、今やっている作業をずっと貫いていって、そして、使っていってる方達に、工夫する事を感じて欲しいという風に思っています」。昔からやっている技術はブレないものでありゆるぎないもの。新しく生み出す事は、おぼつかない事。匠はその違いが分かっていた。古い事に固執する事もダメ、新しい事にチャレンジしない事もダメなんだろう。しかし、その違いが分かっている事が、一番大事だ。
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