匠の蔵~words of meister~の放送

ゆいまーる牧場【石垣牛 沖縄】 匠:金城利憲さん
2013年07月13日(土)オンエア
食肉に懸ける熱い情熱とこだわりの姿勢から、業界内外に多くのファンを持つ食肉のスペシャリスト『ゆいまーる牧場』の金城利憲さん。大阪で20年以上、精肉、食肉加工、流通、レストランなどに関わる中で、どうしても自分で牛を育てたいと思い、故郷、石垣島に牧場を設立。飼料作りから食肉解体までを一貫して行なう他、沖縄在来の幻の黒豚『石垣島アグー』の生産にも精力的に取り組む。「食肉は信用が第一の世界ですので、最初は売るのに苦労しましたね。人の2〜3倍は働きながら、『石垣牛』を使用したコロッケの販売で食い繋ぐような生活を送っていましたが、幸い大阪時代に『神戸牛』の取り扱いが全国で最多だったという実績が自分にはありましたので、徐々に信用されるようになっていきました」。その後、金城さんは牧場経営から店舗経営まで幅広く展開。2000年に開催された沖縄サミットの首脳晩餐会のメインデッシュに食材を提供した他、日米のトップシェフが集う世界最大級の料理会議に日本を代表する食肉生産者として参戦するなど、『石垣牛』のブランド確立に大きな貢献を果たす。「美味しいお肉を作るためには長期肥育が大事なんですよ。時間をかけて育てた牛は、筋肉の中にアミノ酸が多く蓄積され、脂肪や肉の中に、グルタミン酸、イノシン酸、バニラエッセンスなどが含まれる他、脂肪の融点が下がっていくという特徴があるんですよね。ですから『松阪牛』や『神戸牛』などのブランド牛は、どれも長期肥育されているんですよ」。一般的なアメリカ産の牛の脂肪の融点は45度と言われているが、金城さんの育てた『石垣牛』の脂肪の融点は22度。実際に、その脂を手の平に擦り込むと、体温だけで、まるでマジックのように、みるみるうちに溶けて消えてしまう。「人肌で溶けるほど脂肪の融点が低いということは、魚に多く含まれる不飽和脂肪酸が豊富なことを物語っているんですよね。ですから、それは『和牛は魚だった』という言葉で文献でも表現されています。牛肉というと、どうしても悪玉コレステロールを溜めるというイメージがありますが、逆なんですよということを、私はこの『石垣牛』で証明したいんですよね」。病気のリスクが高まるなど、簡単なようで難しい牛の長期飼育を、卓越した技によって実現した金城さん。その『和牛は魚』と賞賛される『石垣牛』の脂は、人の口だけでなく、人の体も喜ばせていた。「石垣は牧草が1年中採れますから、そのビタミンを多く含んだ草を食べさせることが、牛を育てる上でとても大事なんですよね。しかし、逆に食べさせ過ぎると、脂肪が黄色くなり、グラスの匂いがついて味が落ちてしまいますので、そのバランスを見極めながら草を与えていくと。ですから、きちんと管理しないと、良いお肉はできないんですよね。外にほったらかしで屋根もないような場所で、大量に牛を育てる外国では、決して日本の和牛のような味を作ることはできません」。そんな金城さんは、今後は本格的に『石垣牛』を携えて、牛肉の世界最大市場であるアメリカに乗り込みたいという。「何事も自分の許容範囲内の中でやっていると、人間は成長しないんですよ。自分の能力以上のことにチャレンジするから成長するんですよね。ですから、牧場のことを何も知らないのにチャレンジしたことも、今回、貿易のことを何も知らないのに輸出にチャレンジしたことも、すべて自分自身の成長に繋がるんですよ。当然、問題は起きますが、その問題を乗り越え、経験することで、次に同じ問題が起きた時に対処することができすよね。自分は、できることしかやらない人間でありたくないと思っています」。どんなに周囲から無謀だと言われるようなチャレンジでも、常にできない理由ではなく、できる理由を考え、壁を乗り越えてきた金城さん。そのチャレンジは日本の畜産産業に光を射すモノだった。「『人間万事塞翁が馬』という言葉がありますが、現状維持だと必ず衰退していきますから、前に進むしかないんですよね」。

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