法被や袢纏、幟や暖簾などを、手染めによって仕上げる『肥後染工房』の代表、中村淳一さん。創業当初より複雑な柄や独自の柄にも対応し、唯一無二の染物品を製作し続ける。
「手染めの場合は気温や湿度など、作業を行う時の環境によって風合いが変化しますし、極端な話、午前と午後とでも変わってきます。本当は、そこを均一にしなければならないのでしょうが、今の時代は、『そんなところが味があってイイ』と言われる方が多いんですよ。また、滲みやゆらぎなど、手染めの場合は独特の表情のある柔らかい仕上がりが表現できますし、長く使えば使う程、色が落ち着いてきて、何とも言えない雰囲気を醸し出すんですよね」。そう語る中村さんは、だからといって、あえて染物を滲ませるようなことはしないという。
「そこは自然に滲ませないと、あざとくなるんですよね。狙って手染めならではの独特の風合いを出そうとするのではなく、自然に手染めをして、その中から生まれる風合いを大事にすると。それはやはり機械からは、決して生まれないモノですからね。最近は機械が発達して、わざと汚すようなことが出来るようになりましたが、私はそれが嫌いなんですよ。それでも商売ですから機械で独特の風合いを出すことを否定はしません。その場合は、まず面倒な手染めを勉強してから、機械を触った方がイイのかな〜と思いますけどね」。中村さんが手染にこだわる理由。それは何も技術的な部分だけでなない。なぜなら手染めは、機械では決して込めることができない、一つひとつ製品に職人の魂を込めることができるから。
「手染に対してプリントの場合は機械作業ですから、手間がかからず単価も下がります。ですから手染めとプリントは、『どちらの方が良い』ということはないんですよ。用途によって使い分けて頂ければイイと思うんですよね。ただ思い入れのある品やこだわりの品を染める場合は、やはり手染めをオススメしています。そこには職人の魂だけではなく、お客様の想いも込めることができるような気がしますからね」。そんな中村さんは手染めをする場合、バランスに一番気を使うという。
「私の場合はお客様に現場に来て頂いて、納得してもらってから染めているのですが、その時にアドバイスするのはバランスですね。例えば黒に合う色や、全体に対する文字の大きさなどのバランスは、その製品の良し悪しを決める一番重要な部分ですからね。幟や暖簾などは、主にお客様の広告となるモノですから、一番きれいに見えるように仕上げたいですし、何よりその広告が、私自身の広告にもなりますからね」。座右の銘に『日進月歩』を掲げ、日々、客の声に耳を傾けながら歩む中村さん。
その愚直に手染めにこだわる職人であり続ける中村さんの技術は、どんなに機械が発達しようとも色褪せることはない。
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