液状に溶かしたロウで模様を布地に描き、染色後にロウを取り除く「ろうけつ染め」の技法で、染色工芸品を制作する染色工芸家「染工房 明美」の高津明美さん。高津さんは、季節、時間によって表情を変える阿蘇の雄大な自然に魅了され、阿蘇をテーマに数多くの作品を制作。20歳からダイナミックな構図と、鮮やかな色合いが特徴の作品を作り続け、今年で43年になるキャリアの中で、公募展の頂点である「日展」で26回入選、特選を2回受賞し、昨年は日展審査員を務める。「芸術の分野で女性が長く続ける為には、自分を支えてくれる周囲の環境作りが重要となりますよね。幸い、私の周りには、よき理解者が沢山いましたので、現在まで続けて来られたと思います」。結婚、出産、子育てと経験する中、それでも作品制作のみに打ち込める男性の同業者と対等に勝負してきた高津さん。その作品を制作する上での信条は、普段の生活の中にある。「作品上では、暴れたり、色んなことをしたりしてもイイのですが、生活はキチっとする。そこが間違えてしまうんですよね。少し評価されると、芸術家ぶって、格好つけてしまうのですが、それでは続かないんですよね。生活と作品制作は切り離せるモノではないと思います。普段の生活の中の感情が作品に絡んできたり、普段の色々な出来事が作品に表れたりするものですからね。ですから、普段の生活をキチっとする。そこが大事だと思います」。わずかな期間だけでイイのであれば、生活を犠牲にしても作品は作れるかも知れない。しかし、それを一生の仕事としたいのであれば、やはり基盤となる生活は大事になる。仕事を言い訳にすることなく、家事に子育てに生活もキチっとしてきたという高津さんの作品からは、女性ならではのしなやかで力強いパワーと、元気を貰うことが出来た。「私は作品を作る上で、自分らしさを出そうとか意識をしていません。そういうことを考えたら、描けないと思うんですよね。描いているうちに、自然にそういう風になっている。自分で気付いていたのではなく、気付かないうちに、そういう風になるのではないのでしょうか。ただ自分は作るだけで、それを見てくれる人が、高津らしさというモノを決めてくれたらイイのかな〜と思っています。人は、『あっ高津さんの作品ね』って、すぐ分かるって言うんですよ。何で分かるんだろうね〜と思いますけど、それが自分で分かったら面白くないんじゃないですかね」。自分らしさという言葉は、イイ意味でよく使われるが、何かを生み出す、表現する人にとって、そんなモノは、ただ自らの可能性を狭めるだけのモノでしかない。“らしさ”なんてことに捉われず、長年、雄大な阿蘇の自然と向き合い続けてきた高津さんの“らしさ”は、そんな自由自在な制作姿勢の中だけにある。「今は天草更紗にもチャレンジしているのですが、何でも興味を持って、好奇心旺盛にやってみることが大事だと思います」。そんな高津さんの人となりは、座右の銘であるという、上杉鷹山の言葉に象徴されている。「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。
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