ドイツ語で「名人」「巨匠」の意味を言うマイスター。佐賀県では、平成12年度から伝統工芸を含む各分野で、高度に熟練した技能者を「佐賀マイスター」として認定し栄誉を称えている。佐賀の伝統工芸品でもある織物、佐賀錦の技術を継承する人物として、平成13年度に、その「佐賀マイスター」に認定された池田幸子さんは、日本が敗戦のショックから立ち直った高度経済成長期から、佐賀錦の普及振興活動を始め、今でも自宅で佐賀錦教室を開き、数多くのお弟子さん達に指導している。鍋島藩の時代に華開き、金、銀、漆を使った和紙を、日本で唯一、縦糸に使う織物として知られる佐賀錦は、その美しい色彩が魅力だが、池田さんは、「美しいものには必ず美しい理由がある、そこをちゃんと勉強しないと、一本一本の糸を選ぶ事さえ難しい」と言う。そして、「この模様を作りたいと思ったら、色を選ぶ時に、何故、この色の糸と、この色の糸を組み合わせるのかっていう事を説明出来ないと作れませんよね。繊細な佐賀錦の模様は、やはり勉強しないと出来ません」と勉強の必要性を何度も説いた。確かにその佐賀錦に施された仕事は豪華絢爛ながら非常に細かく、精緻な技術を要する事は想像に難くない。池田さん曰く、「手仕事では一日にわずか数センチしか織る事が出来ない」そうだ。「例えば、濃い色が好きって思うじゃないですか。でも、濃い色を使うならば、その濃い色が浮き立つ色を際に使わなきゃいけない。どうすれば色が綺麗に見えるのか。一番大事な事は色彩感覚を磨く事です。作りさえすればいいんじゃないんですよ。やはり常に勉強して新しい事を考えていかなきゃいけないんですよね」。理由もなく感動する色や味の組み合わせ、バランスというものがある。そこには、日本人が何百年もかけ、感覚として慣れ親しみ、培った法則がある。まず、そこを学ぶ事は、人間関係もそう、料理もそう、何を作る上でも最良の近道なのかも知れない。「人には感じる人と感じない人がいるんですよね。私は感じない人には教えません。私もその感じる心を、まだまだ磨いている途中です」。池田さんの年齢を感じさせないその瑞々しい感性は、佐賀錦の未来を明るく照らしている。
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