匠の蔵~words of meister~の放送

籠商 山満【竹細工製品 熊本】 匠:山田庸介さん
2015年08月29日(土)オンエア
熊本県日奈久の特産品『日奈久籠』を始め、様々な竹細工製品を製作する工房『籠商 山満』の五代目、山田庸介さん。手掛ける竹細工が平成22年に歴代最年少で、熊本県伝統工芸品に指定された他、全国誌で熊本県技術職人として取り上げられるなど、その独自の感性と技術が、全国でも高く評価されている。
「実家は日奈久に店を構える明治7年創業の老舗なんですが、当時は温泉客の土産物として竹細工が重宝されていて、日奈久にはうちの他にも百数十軒もの竹細工を作る工房があったそうです。しかし時代と共に需要が減っていき、特産品であった『日奈久籠』の技術も途絶えてしまったんですよね。僕はそれがもったいないな〜と思ったんです」。『日奈久籠』は、もともと豆腐を運ぶ為に竹で編まれた籠で、大きなモノでは5段にも重ねることができるという。山田さんは高校を卒業後、機械メーカーに就職し、ロボットアームなどの精密機械を作っていたそうだが、そんな『日奈久籠』の技術を後世に残したいと辞職。竹細工職人として工房の跡を継ぐことを決意したという。
「もともとプラモデルを徹夜で作っていたようなモノづくりが大好きな子どもだったんですよね。ですから何も躊躇することなく、そして精密機械を作るよりは楽だろうと思って転職したんですが、それが間違いだと直ぐに思い直しました。実は職人の世界は精密機械の世界以上に0.何ミリの違いがモノをいうんですよね。これは手強いなと(笑)」。山田さんは機械メーカーを辞職後、日奈久竹細工のルーツである大分県別府の高等技術専門学校に進学。修了後も産業科学技術センターや竹細工職人のもとで研鑽を重ね独立。現在は熊本市北区の『フードパル熊本・こだわり工房村』に工房を移転し、念願の『日奈久籠』作りを中心に、日々、竹と向き合っているという。
「最初は竹と喧嘩ばかりしていたんですよ。捻じ曲げて、どうにか自分の思い通りに作ってやろうと。ずっとそんな感じで作っていたんですが、10年もすると到底、人間は竹には敵わないということを悟ったんですよね。ですから今は竹と会話をしながら作っていますね。竹に『これでいいですか?』とお伺いを立てながら作る感覚ですよね。竹が納得してくれると上手に仕上がりますが、強引にやるとトゲが出てきたり、直ぐにボキっと折れたりしますからね。竹は本当に正直ですよ」。箸や笛、竿もそうだが、古くから竹で作られてきたモノに日本人は竹冠を付けてきたという山田さん。そんな漢字にも表れるように、自然と密接な関係を築いてきた日本人の感覚からすると、竹との会話という話も不思議と腑に落ちるから面白い。
「今、竹が痛がっている、嫌がっている。そういう感覚をいかに身につけるかということが大事だと思います。薄く剥ぐ竹ひごなどは特に、竹と真摯に向き合った時間がモノをいうんですよ。薄さと厚さの絶妙なバランスなどは、決して自分本位の考えでは生まれませんからね」。竹の特徴や性質を読み取り、その長所を生かすことで丈夫で長持ちであることはもちろん、見た目にも美しい竹細工製品を生み出す山田さん。その座右の銘は、山田さんの竹細工の師匠でもある祖父の教えだという『一生勉強』という力強い言葉だった。

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