豊かな食材の宝庫である長崎で、フランス料理店『プルミエ・クリュ』を営む新進フレンチシェフ、深田伸治さん。元々は神戸で建築関係の仕事に従事していたが、27歳の時に阪神大震災の影響で仕事が減少。自己表現の対象を料理に求め、長崎へ移住してきたという。
「建築関係の仕事が厳しい時代となり、自分探しといいますか、様々な経験を重ねる中で料理に辿り着いたんですよね。そして、地方でオーベルジュ=宿泊型のレストランを営みたいという夢を描くようになり、以前、一度訪れたことがあった長崎を選んだというわけです。ですから、いまはオーベルジュを営むまでの途中にいるというわけですね」。そうして、フランス・ブルゴーニュ地方で使われる『最上位のブドウ畑』という意味の言葉を冠した店で、日々、客をもてなす深田さん。その空間は、隅々まで深田さんの目が行き届き、訪れた人の心を和ませる。
「以前は寺町で3年半、店を営業していたのですが、基本的に一人で、客のかゆいところに手が届く形態で営業したいと店の規模を縮小し、8年前に鍛冶屋町に移転してきました。いまの店は4組で満席となるため、昼、夜ともに予約制で営業しています」。その店内は良き時代のパリのアパルトマンの一室をイメージ。無垢素材を使用したアンティークの家具やシャンデリアを配し、落ち着いた空間が演出されている。「私はお客様に遊びに来た感覚で、食事に臨んでいただきたいと思っているんですよね。堅苦しく料理を食べるよりも、好きな映画や音楽を楽しむような感覚で、リラックスして料理を食べた方が、やはり美味しいですからね」。そんな深田さんは、長崎の豊かな食材のみでなく、全国各地、フランスから厳しく選別した極めて上質な食材を提供。地産地消にこだわることはないという。
「地産地消はいいことなのですが、長崎は豊かな食材の宝庫ですから、そこにこだわり過ぎると、長崎では逆に同じような食材を使った店ばかりになると思うんですよ。ですから私は、自分の知る限りの食材を、自分が表現したい味に一番適している食材を、他県や海外からも仕入れています。また、お客様がイメージしやすいようにフランス料理と標榜していますが、フランスの調味料だけでは日本の食材は生かせません。逆に日本の調味料だけでは、フランスの食材を生かせません。ですからフランスと日本の食材、調味料を融合して作る私の料理は、日本風フランス料理だと思っています」。そんな深田さんは、自らの作る料理にはテーマがあるという。
「軽やかに。食後でも、すぐに食べたいと思えるような料理をテーマに掲げています。フランス料理といえば伝統というイメージがありますが、実際にフランスに行けば、その伝統の上に、それぞれの料理人が、常にアクティブに良いモノを積み重ねているんですよね。そう考えると、やはり私も本当にいまに合った、料理の作り方、火の入れ方、ソースの軽さを考え、それを重視して素材を殺さないように心がけています。私の好みは、塩を使用せずに食材から塩分を取り出したり、食材を凝縮させて味を強め、それを塩分に感じさせて仕上げたりする薄味なんですよね。長崎は高齢の方が多いのですが、おかげさまで、そういう方々も、また食べたい、また食べたいと、食べた後にでも、思っていただけるような仕上がりになっているのではないのかなと思います」。クラシックな料理やレシピを現代風に転換し、軽さと想像力を加えて表現する深田さん。そこには料理人という肩書きを捨て、いち表現者としての姿があった。
「私は表現者という形で、お客様と接点をもって料理を提供しています。私の料理の仕方というのは、私の頭の中を、料理として形で表すというモノなんですよね」。
| 前のページ |