県南の真珠養殖の草分け的存在である『オーハタパール』の代表、大畠美津子さん。三重県から国策として南に広がった真珠養殖を昭和25年より祖父が開始。以来、60年以上、佐伯湾の豊かな海の恩恵を受けながら、良質なアコヤ真珠を生み続けている。「通常、アコヤ貝での養殖期間は10ヶ月程度なのですが、ウチでは2度の夏を越す長期間養殖を行って『越しもの』と呼ばれる、真珠層の巻きの良い真珠を育てています」。その真珠養殖の命とも言われる核入れ作業は、人間の世界でいう外科手術。塩化マグネシウム液で麻酔をかけたアコヤ貝に、カナダ産の二枚貝で作った直径3ミリから9ミリの核を入れる。「どうしたら真珠をお客様に買って頂けるのか?それは、感動を与えることが出来るか、どうかだと思うんですよね。先日、ジャンルの違う2人のピアニストが共演した演奏会を聴きに行って、すごく感動したのですが、それは技術に感動したんだと思うんですよね。2人の音楽の根底に、キチンとピアノが弾ける技術があるから、ジャンルが違ってもセッションした時に感動する音が調和して届くと。ですから、技術や仕事の確かさというのは、すべてではないけど、人に感動を与えられることの一つだと思うんですよね。だからこそ、そこに到達する為の日々の努力は、私たちがお客様に感動を与えられるかどうかの大事な要素になると思います」。仕事、芸術、恋愛...そのどれをとっても、人の心は基本がしっかりしていないと動かすことは出来ない。その巧みな手さばきで作業を行う『オーハタパール』の術者たちの姿は、「人を感動させる為に必要なことは技術」と語る、大畠さんの言葉を体現していた「真珠は消耗品ではありませんので、一度購入してしまうと、何度も購入して頂けるという商品ではないんですよね。しかも、世代によってデザインが違うということもありませんので、良い真珠を買って頂いたら買って頂いただけ、お婆さんのモノが母親へ、母親のモノが娘へと受け継がれていくモノなんですよ。そうすると、真珠は譲ってくれた人の思い出や、想いまで受け継いでもらえる商品とも言えるんですよね。ですから、そういう意味では、何回も買って頂けないのですが、私たちは、お客様の想いも伝えるお手伝いをしているということを、感じながら仕事をしていかなくてはならないと思います。いま私が修理などで真珠をお預かりするお客様は、『アナタのお父さんから買った商品ですよ』という方が多いですし、また、私がこうやって仕事を続けていれば、その内、『私から買った商品ですよ』と言ってくれる方が増えると思いますしね。そうなる為に努力していこうと思います」。世代を超えて想いまでもが受け継がれるモノだから...そんな誇りを胸に仕事と向き合う大畠さんの姿は、真珠ように眩しく輝いて見えた。「買ってもらったら終わりじゃなく、私たちの仕事は、買ってもらってからが始まりなんです」。
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