匠の蔵~words of meister~の放送

田島柑橘園【柑橘園 佐賀】 匠:田島彰一さん
2016年03月05日(土)オンエア
有明海で水揚げされる竹崎カニの産地として知られる太良町で、『田島柑橘園』を営む田島彰一さん。田島さんは小粒ながら皮を剥くとフワリと立ち上る甘い香りが特徴の、スペイン原産の『クレメンティン』の栽培に日本で初めて成功するなど、柔軟な発想で希少種を始めとする様々な品種のミカンを栽培。また「ミカン農家としてジュースになると不味くなるのが許せない」と、理想のジューサーを探し求め、搾りたてのミカンの風味が味わえる様々な品種のジュースも製造。『クレメンティン』のストレートジュースである『セニョリータ陽子』は、日本経済新聞社主催の『夏に美味しいご当地ジュース』ランキングで日本一に選ばれたという。
「私が20代前半の頃にミカンの大暴落があったのですが、その時に佐賀県の農業試験場から新たな5品種のミカンを育ててみないかと提案されたんですよね。その中のひとつに『クレメンティン』があって、私は甘く優しい香りに一目惚れしてしまったんですよ。そして、これを育ててみようと栽培を始めた訳ですが、実はその『クレメンティン』の木が潜伏期間8年の病気にかかっていて、数年後にすべて伐採する事態になってしまったんですよね。当時は1kg700円で販売していましたからね。それはもう本当に悔しい出来事でした」。それでも田島さんは『クレメンティン』の栽培を諦めきれず、何度もヨーロッパへと渡航。スペインのメルカドでその美味しさに改めて惚れ直し、現地の農家の人々との交流を通じて『クレメンティン』の苗木を手に入れることができたという。
「スペインのメルカドと太良町の気候は雨量が多少違うぐらいで、太良町は『クレメンティン』の栽培に適していたんですよ。また『クレメンティン』は鈍感なのか、その程度の気候の違いでは、味がまったく変わらないんですよね」。そんな紆余曲折を経て、栽培に成功した田島さんの『クレメンティン』は、糖度13度以上(品評会では16度を記録)とスペイン産を凌駕する甘味を誇り、東京市場で一大旋風を巻き起こしているという。
「私の両親は本当に楽しそうにミカンを育てていました。その姿が今も忘れならないんですよ。そんな両親から受け継いだ太良のミカンは世界一の美味しさだと確信していますので、私はこの味をもっと多くの人に伝えたいんですよね」。自らの仕事を趣味の囲碁に見立て、盤面に広がる全体の状況を見ながら、常に客が喜ぶ味を追求してきたという田島さん。そんな田島さんのミカンに対するこだわりは多岐に渡っていた。
「商売は儲けようが先にあっては絶対にいけません。お客さんに喜んでもらって初めて儲けることができるんですよね。ですからウチではお客さんの健康も考えて、できるだけ減農薬でミカンを育てています。除草剤などは15年間、まったく使っていません。また今は佐賀大学と共同研究で、私が育てたミカン6品種の機能性成分や酵素成分などを調べてもらっています。食べて美味しいだけでなく、美味しい理由もハッキリと数字でお客さんに提供できると、さらに親切じゃないですか」。ミカンは食べ物である以上、食べた時の味がすべてだが、美味しさは口だけでなく頭でも味わった方がより強く感じられると、美味しい理由もデータで客に提供したいと考える田島さん。そんな理屈も味の内と考える田島さんが育てたミカンは、誰もが納得する美味しさで全国の人々に支持されていた。
「いまコールドプレスジュースというのが東京で流行っているんですが、それは酵素がたっぷりと入っていると評判なんですよ。でも、それならどのくらい酵素が入っているのかデータとしても出さなくては面白くないと。ですから私はミカンもジュースもデータを大事にしていこうと思っています」。ミカンが誰よりも大好きであるが故、そのミカンを誰よりも知りたいと、経験だけに頼る仕事を由としない田島さん。そんな田島さんは自然が相手の仕事には終わりがないという。
「まだ最高のミカンを栽培しているとは思いません。自然を相手にする仕事は毎年、環境が変わりますから本当に難しいんですよ。ですからいつまで経ってもチャレンジです。これで良いと思ったら終わりでしょうね」。今後はミカンの美味しい部分だけ、たった25%しか搾らないが故に、ミカンをそのまま食べるよりも美味しいと評判のジュースの製造に、さらに力を入れていきたいという田島さん。その座右の銘は、自然と共に歩む人ならではの『人間万事塞翁が馬(人生における幸不幸は予測しがたい。幸せが不幸に、不幸が幸せにいつ転じるかわからないのだから、安易に喜んだり悲しんだりするべきではないというたとえ)』と、『自然のままにボチボチと』という2つの言葉だった。

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