匠の蔵~words of meister~の放送

工房みやじ【信仰玩具製作 鹿児島】 匠:花見ユリ子さん
2015年03月07日(土)オンエア
霧島市の『鹿児島神宮』に奉納する信仰玩具を製作する『みやじ工房』の四代目、花見ユリ子さん。
南九州に春を告げる『鹿児島神宮』の伝統行事『初午祭』の御神馬を飾る『初鼓』を始め、鹿児島県の伝統工芸品に指定された『鯛車』や『香箱』など9種類の信仰玩具を幼少の頃より製作。キャリア60年を超えた現在は、娘さんと2人で伝統の火を灯し続けている。
「代々、我が家は『鹿児島神宮』に信仰玩具を納めてきたんですよね。『初鼓』は輪になった竹に和紙をピンと張って、片方に馬、もう片方に鳥居の絵を描き、糸のついた大豆と御幣をつけたモノなんですが、その大豆が奏でる音からポンパチとも呼ばれています。そんな『初鼓』に私は小学生の頃から色を塗ったり大豆をつけたりして、両親の仕事のお手伝いをしていたんですよ」。その『初鼓』は現在、JR九州の『ななつ星 in 九州』の乗客への贈答品にも選ばれているそうで、花見さんは小型化した贈答用の『初鼓』作りで、忙しい日々を送っているという。
「信仰玩具はその土地に暮らす人々の生活や習慣、信仰から生まれたモノで、作り始めた人の名前も時代も分かりませんが、そのような玩具を通じて県外の方に、鹿児島のことを知って頂けるのは嬉しいですよね」。『工房みやじ』が工房を構えるのは『鹿児島神宮』近くの田園風景が広がる宮内地区。古くから信仰玩具を製作する工房は神宮から半径1km以内という暗黙の了解があるそうだが、花見さんは、そんな神宮の傍で共に歴史を重ねてきた玩具だけに、製作する時の気持ちは特別なモノがあるという。
「これは『鹿児島神宮』に奉納されている信仰玩具ですので、やはり皆さんがこういう玩具を手に取ったり見られたりして、元気になりますように健康になりますようにという想いを込めて作っています。例えば『初鼓』に絵を描きながら『これは誰の手に渡るのかな?』『誰が買って下さるのかな?』とか想像しますよね。そうして手に取られた方が、『初鼓』の音で元気になったらいいな〜とか考えるんですよ。また自分の作った玩具が神宮で清められてお客様の手に渡る訳ですから、やはり少しでもおかしいモノは作れないという、そんな気持ちで仕事に取り組んでいます」。『初鼓』を彩る赤や緑、黄色の色たちには、子どもたちが健康でありますようにという願い。そして音には悪いモノを追い払うようにという願いが込められているという。そんな先人たちが込めた想いを受け継ぐ花見さんの仕事は、厳しくもあり、しかし楽しくもあるという。
「こういう玩具を作っていて楽しいんです、とにかく楽しいんです。色がカラフルなこともありますが、自分の方が元気をもらっている気がします。毎朝、今日も一日、この玩具を作れるんだ〜ていう、そんな気持ちですよね」。現在は年に1回、地元の小学生たちに『初鼓』作りを教えているという花見さん。子どもたちの大喜びする姿にも元気をもらっているという。
「『初鼓』の絵には意味がありますから、両面とも違う絵を描くと『初鼓』ではなくなりますから、子どもたちには片面だけ自分の好きな絵を描いていいよって伝えているんですよ。そうすると本当に嬉しそうに絵を描くんですよね。そうして完成した『初鼓』を大事にしている姿を見ると、自分の方が元気になりますよね」。そう目を細める花見さんの仕事は、これからも自分自身のみでなく、大勢の人々を元気に健康にし続ける。

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