匠の蔵~words of meister~の放送

鍛冶屋 吉光【鍛冶屋 長崎】 匠:吉田将仁さん
2014年03月08日(土)オンエア
島原市で江戸時代から鍛冶屋を営む老舗『鍛冶屋 吉光』の九代目、吉田将仁さん。全国的にも珍しい日本古来の『たたら製鉄法』で生み出される『玉鋼』で包丁を製造。国宝級レベルと称される技を駆使し、日本刀同様の鋭い切れ味と、粘り強く、しなやかな刃先を兼ね備えた包丁を製造する。
「私の先祖は『島原の乱』が発生した当時に、水戸から島原に連れて来られたらしいのですが、『吉光』の名前は、吉田の『吉』と、水戸の藩主であった水戸光圀公の『光』を掛け合わせて名づけたそうです。元々島原は農業が盛な土地で、昔は鍬や鎌を作る鍛冶屋が50軒ほどありましたが、後継者不足と機械化による大量生産の商品が増え、今では『吉光』を含めて8軒ほどになってしまいました」。そんな中、35歳の時に勤めていた自動車メーカーを退職し、『吉光』を継いだ吉田さんは、家業を絶やさぬ為には技術を高めるしかないと考え、昔の文献を参考にしながら『たたら製鉄法』に挑戦。有明海沿岸で砂鉄を集め、釜で溶かし、炭や藁を使い、独特の製法で作られる希少な『玉鋼』を使った包丁を完成させるまでに、数々の失敗を繰り返してきたという。
「何事もいきなり偶然に良いモノは出来ませんので、それこそ積み重ねですよね。完成するまでは、失敗の方が多かったのではないかと思える程、それこそ失敗の連続でした。完成した商品をみると簡単に出来たように感じるのですが、その裏には必ず隠れた失敗が数多くあるということですよね。ですから一応やってみようでは、ダメなんですよ。そこに覚悟がなければ、一度失敗すると、やっぱりダメだと簡単に諦めて、その先に進めなくなってしまいますからね。この方法で、この鋼を作って、こういう風に作ってみたら、こうなるだろうと試行錯誤を繰り返しながら、確信が持てた時点で作業を進める。地道にそんな作業を続けることが大事だと思います。」かのエジソンは、『失敗は、うまくいかないことが確認できる成功』と語ったというが、覚悟をもって失敗という名の成功を積み重ねてきた者に訪れる偶然は、決して偶然ではなく必然だといえる。
「包丁が完成すると、自分の理想とする形が生まれたと満足できるのですが、その包丁も何年後かに見ると、必ず『まだまだだな〜』と思うんですよね。常に次が代表作という気持ちで作っていますので、終わりがない仕事ですよね」。工房にカンカンと響く音、散る火花...幼い頃より父親たちの仕事を間近で見続け、代々受け継がれてきた技術、そして、経験の大切さを肌で感じ、『積み重ね』という言葉を座右の銘に掲げる吉田さん。その終わりのない仕事から生まれる包丁は、これからも幾重にも積み重ねられるであろう吉田さんの経験によって、さらに光輝くモノとなる。
「中途半端に作るぐらいでしたら、とことん良いモノを作ってみようという想いがありましたからね。それは人に出来ないモノですよね。『鉄は熱い内に打て』と言いますが、この熱い気持ちに正直に、これからも自分にしか出来ないモノを極めていきたいなと思っています」。

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