フラワー装飾の一級技能士の資格を、佐賀県で初めて取得した『花のすえつぎ』の末次栄蔵さん。佐賀のフラワーデザイナーのパイオニアとして、基本技術と感性を大切にしながら、結婚式会場からウインドウディスプレー、そして、家庭のテーブルまでを華やかに彩り続ける末次さんだが、その原点は1冊の本との出合いだったという。「たまたま本屋さんで手にした本に、花店は桶と鋏と花の仕入れ資金があればできると書いてあって、最初はただ植物が好きだから、ただ簡単に開業できそうだからという安易な気持ちでこの道に進んだんですよ」。そうして福岡で見習い修行をした後、25歳で佐賀に花店を開業。しかし、すぐに壁にぶつかる。「一人前になった気持ちで、花を飾る技術を競う大会に出場したのですが、土台のスポンジが割れてしまい、花を飾ることさえできなかったんですよ。また、当時の佐賀の花店の技術は、九州で最低レベルだったことにショックを受けて、その後、佐賀花商組合青年部に呼びかけて、勉強会をスタートさせたというわけです」。そうして末次さんは自らの技術向上に努める傍ら、後輩育成にも尽力。佐賀県勢を九州トップレベルの実力にまで育て上げ、『佐賀マイスター』に任命される。「私は花と会話しながら、花の声に耳を傾けながら飾ります。そうすれば手に取った瞬間に、花をどこに飾れば美しいのかが分かるんですよね。もちろんデザインには基本があるので、基本を押さえた上で飾ることが大事なんですが、計算だけでは決していいデザインにはなりません」。長年の経験で培われた感性を信じ、その感性に身を委ねるが故に、末次さんは「上手くいくときもあるし、どう頑張ってもダメなときもある。この仕事は本当に気持ちで左右されますから、仕事を楽しむ、楽しくやるのが一番です」と笑う。やはり人を楽しませる...感動させる何かは、自らも楽しめる...感動できるコンディションでないと生まれて来ない。何事も仕事とは、その仕事に向き合う前の準備から始まっている。「結局、どんな仕事でもいやいや仕事をしていては、いい仕事はできませんよね」。そんな末次さんの座右の銘は『上善は水の如し』。「最高の人生の在り方は、水のように生きるということ。水は自らの存在を主張せず、低い方へと自然に流れていきますよね。ですから水のように生きてこそ心穏やかに過ごすことができると思っています」。そんな末次さんの言葉一つ一つからは、人を感動させる仕事の難しさ、奥深さを感じることが出来た。
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