高菜の産地として知られる熊本は阿蘇にある「あそ路」。この店は、阿蘇の名産である高菜を使った、高菜飯の元祖の店として知られているが、その味は昔、店主の井芹和徳さんに、お婆ちゃんが作ってあげていたものだそうだ。「昭和43年に家族4人で店を始めたんですが、叔父に高菜飯なんて家庭料理を出すのは恥ずかしいって言われたんですよね。でも、その家庭料理が、カレーライスのように徐々に広がっていけばいいなって思ったんです」。しかし、そんな井芹さんが作る高菜飯が、熊本の名物料理として全国に広がるまで、そんなに時間はかからなかった。「お金を頂いている以上、こだわりっていうのは当たり前じゃないですかね。家庭料理を提供すると言う事は、自分の味っていうのか、自分達の生き方っていうのか、どこまで通用するかですよね。ウチは高菜飯がたまたまヒットしたもんですから、自分としては高菜飯と心中するつもりですよね。高菜飯を食べに来られたお客さんが殆どですから、他のメニューが出せないんですよ。また、ウチも元祖と謳っている以上、他所の高菜飯を食べた事もあんまりないんですよね。とにかく、ただ私の祖母であるサキ婆ちゃんの想いって言うのか、子供達に食べさせてた想いって言うか、そういうものを大切にいけたらと思っています。そして、それが今の時代にどこまで通用するかっていう、一種の賭けです」。郷土料理というのは、もともとその地方で食べられてきた食から生まれている。それぞれの家庭で家族の事を想い、作られてきた郷土料理を提供すると言う事は、その想いも一緒に提供すると言う事だろう。サキ婆ちゃんの想いも込められた匠の高菜飯の味は、もちろん美味かった。
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