匠の蔵~words of meister~の放送

工房Eri【靴 鹿児島】 匠:木ノ下エリさん
2013年08月17日(土)オンエア
 鹿児島市の郊外にある小さなログハウスで、革製品の本場、イタリア・フィレンツェの伝統的な技法をもとに靴づくりを行う『工房Eri』の木ノ下エリさん。その工房には、様々な足の木型や素材となる革、そして、靴づくりに欠かせない道具などが所狭しと並べられている。
 「もともと海外生活に憧れをもっていて、27歳のときに夢が叶い、イタリアのフィレンツェに留学することができました。靴づくりを学ぼうと思った理由は、帰国後も生かせる技術を吸収したいという思いと、自分で好みの靴をつくりたいという思いがあったからですね」。既製品ではデザインは気に入っても自分の足に合わない靴もある。そして、足に関する様々な悩みをもつ人にも履き心地のよい靴をつくってあげたいと、木ノ下さんは、フィレンツェの専門学校で知識と技術を学び、さらに現地の工房で1年間インターンを経験したという。
 「学生の頃は英語を勉強していたので、イタリア語はほとんど話せませんでした。でも、職人の世界は目で技術を盗む世界ですので、それほど言葉のハンデは感じませんでしたね。そして、フィレンツェの工房では一人の職人がすべての工程を仕上げていましたので、私も自然と一人で靴づくりを行なうようになったというわけです」。現在、靴づくりは分業が当たり前の中、木ノ下さんは、「大事に履き続けてもらえるように」との思いを込めて、すべての工程を一人で行い、しかも手縫いで靴を仕上げる。
 「やはり一番は、その人に合った靴をつくるということですね。でも、一人ひとりピッタリという感覚は違うんですよ。キュっとフィットする感じが好きな方もいれば、少し緩い感じが好きな方もいらっしゃいますので、そこはそれぞれのお客様とコミュニケーションを取りながらつくるように心がけています。本当に自分の中では完璧だと思っていても、やはりそれぞれのお客様によって感じられ方が違いますからね」。その靴は、ただ足にフィットするだけでなく、人それぞれの感覚にまでもフィットする。そんな女性ならではの細やかな心配りが行き届いているからこそ、木ノ下さんの靴は愛され続ける。人の一生に寄り添う靴として。
 「ハンドメードの手縫いの靴は、メンテナンスを繰り返しながら大事に履いてもらうと、本当に一生履き続けることができるんですよ。ですから、靴をつくり上げて終わりではなく、そこからがスタートなんですよね。買っていただいた方と、お婆ちゃんになるまで一緒に歩みたいというか、やはり靴のその先を見届けたいですからね」。今後は「春、夏、秋、冬と季節ごとに合わせることのできる定番のラインを確立し、その中で靴紐や中敷などを変えて楽しめるようにしたいですね」という木ノ下さん。その優しい笑顔の奥には、靴づくりに魅了され、大好きな靴づくりを仕事に選んだ職人の覚悟が滲んでいた。

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