匠の蔵~words of meister~の放送

種の自然農園【農園 長崎】 匠:岩崎政利さん
2009年09月12日(土)オンエア
眼下に有明海が広がる長崎・雲仙岳の麓で、年間80種類以上もの長崎の昔野菜を生産する農園「種の自然農園」の岩崎政利さん。野菜の種は買うのが常識とされる現代において、岩崎さんは健康な土の力だけで育つ安全な野菜作りを目指し、自家採種によって消えゆく運命にある野菜の種を守り、その命を後世に受継いでいる。「昔は農薬のスペシャリストとしての誇りを持ち、様々な農薬を掛け合わせ、人一倍農薬を使用する野菜を栽培していました。しかし自分自身が病気を経験して以来、農薬を使わない自然と共生する農業を考えるようになったんです。そうすると、外から色んなモノを持ち込まず、その土地で採れた野菜の種で栽培するのが一番だと言う事に気付かされました」。有機栽培を謳う野菜は多いが、本当に安全な野菜を求めるならば、その土地に合った種も守り伝えるべき。そうして栽培される岩崎さんの野菜の中には、普段は目にする事のない、昔懐かしい野菜も数多く並ぶ。「京都の伝統野菜などの優れた野菜を、農業の世界では門外不出と呼んでいるんですよね。その農家が独自に代々受継いできた、その農家のみが作る事の出来る、優れた野菜の種というものがあるんです。そういう先祖から受継がれてきた種には、やはり色々な人の想いまでもが重なって、今に受継がれているんです。私は農業にもこういう世界があったのかと驚かされたのと同時に、そういう素敵な種で野菜を作りたいなと思いましたね」。伝統を受継ぐ...陶芸などの伝統工芸の世界では、よく聞く話だが、それは野菜の世界にもある。大事に種が受け継がれ、今にある伝統の野菜たち。しかし、そこには当然のように受継ぐ事の難しさもある。「良い種のみを選抜し交配を重ね、まさしく、これでもかこれでもかと良い野菜を求めていました。しかし、10年程経った頃から野菜の生命力がすごく弱くなっていったんですよね。要するに野菜の世界も私たち人間の世界と全く同じで、自分が求めていたのは美しい女性だけでした。しかし、そこには男性がいたり、太っている人がいたりと様々です。野菜もそういう色々な植物の中で生きているんですよね。今の野菜はすごく美しい、すべて同じです。しかし、本来、野菜一本一本は全部違うものなんです。それがある意味植物として当たり前だということですよね。その多様性にこそ、野菜本来の美しさがあるという事に気付かされました」。燦々と太陽を浴びて葉を広げる野菜…大地に大きく根を張り、たくましく生きる野菜。良い食べ物には、食べると何だか元気になれそうな、理屈抜きの生命力が溢れている。岩崎さんはある部分、形を捨て、大きさを捨て、それぞれの野菜がそれぞれに持つ生命力を大事にしている。穏かで優しそうな顔つきながら、大きなメガネの奥に刻まれた深いシワが、その苦労を物語っているようだった。しかし、その生命力溢れる野菜たちは、一度は味わってもらいたい。「何事も自然に聞いて見るのが一番です。雑木林の中に入り、自然を見つめる。そうすると植物の理が見えてくるんです。私には師匠はいませんが、あえて言うなら雑木林かも知れませんね」。

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