大分県最南端の町・蒲江で、漁業を営む若手漁師10人が共同出資をして創った団体。漁師ならではの経験と知識を駆使した、味と中身で勝負する魚の加工品を消費者の下へ届ける。大分県最南端の町・蒲江で、漁業を営む若手漁師10人が共同出資をして創った団体「かまえ直送活き粋船団」。定置網業者4名、ブリ・カンパチ養殖業者が4名、ヒラメ養殖業者が2名というメンバーが、漁師ならではの経験と知識を駆使した、味と中身で勝負する魚の加工品を消費者の下へ届けている。中心人物である「村松水産」の社長・村松一也さんは、団体を設立した理由を教えてくれた。「魚の流通を見ていると、中間マージンなどで俺たちが捕った魚が高いものとして流れているんですよね。そして、売り場での魚の扱われ方もアレッと思う事が多かったんです。だったら自分達で漁から加工、販売まで行って、お客さんに魚が食べられる所まで面倒をみようと思ったんです」。しかし、元々一匹狼的な人間が多い漁師をまとめる事は、大変な労力を必要としたそうだ。「最初は自分一人でやろうと思ったんですよね。でも多くの人間が集まると、それだけ大きな事にもチャレンジ出来るでしょ。焼酎を飲みながら夢を語り、ようやく10人の仲間が集まってくれました」。そうして、めでたく船出を飾った「かまえ直送活き粋船団」だが、初めて漕ぎ出したビジネスの世界の波は、大海の荒波を相手にしてきた村松さんたちでも苦戦したそうだ。「始めて2〜3カ月で大失敗と思いました。今までは魚を捕るだけでよかったけど、自分達がお客さんに直接売るという事は、客さんから直接お金を貰わないといけない訳でしょ。千円のものだったら千円の価値があると思う人じゃないと買ってくれない訳ですから。その価値を分かって貰うまでが大変なんです。『食べて美味しいは、当たり前で、それだけでは商品じゃない』と言われたんですよね。『見た瞬間に手に取って財布を開けたくなるような見せ方まで必要』だと。そういう考えは、今までの俺達には全くなかったから、未だに本当にいいのだろうかと思いながら走り回っています」。職人さんにとっては、新たな発見だったのだろう。でも、村松さんはこうも言う。「最初は、パッケージなどについて『色んな方面からバックアップ出来ますよ』という話も貰ったんですけどね。どうしても想いがズレるんです。ここで潮風に当たって魚を育てたり獲ったりした人間の気持ちと、街でデザインする人の気持ちとの間には微妙にズレがあって、どうしても面白くないんです。それが難しいですね」。職人さんが「いいものやから、チャラチャラせんでいい」とか言ったりする。しかし伝えたいなら、そのチャラチャラした部分も考えてみたほうがいい。ただ、そこばかりに気が行くと本当にチャラチャラしたモノになる。そんな職人でもある村松さんは、元々はブリの養殖が本業だそうだ。養殖と言えば、往々にして天然より下に見られがちだが、村松さんはこう話す。「魚を養殖するという事は、わざわざお金と手間をかけて育てている訳なんです。それで天然よりも美味しくないモノを作ってたら下手ですよね。俺達は天然界で生まれて来た もじゃこという稚魚を自分で捕ってきて、赤ちゃんの時から世話をしてブリに育てているんです。適度に脂をのせる技術を駆使して、身がどんな肉質で、刺身にするのか焼物にするのかとか、想像しながら作る訳ですからね。だから『天然の方が美味しいんでしょ』って言うお客さんには『天然を食え』って言うんですよ。俺達は絶対に天然には負けてないって思っていますから。命懸けで育てて、それぐらいの想いがなかったら養殖する価値はないですよね」。何事もゴチャゴチャしない方がいいと言う人もいるが、それは作り手が下手なだけで、やり方の問題なのかも知れない。そんな村松さんは、ブリを育てている人間を生で見てもらう事が一番の信用になると、自身の仕事場から自宅までをホームページの中で紹介している。ホームページ「村松さんち」で検索し、職人の生の姿を確かめて欲しい。
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