脊振高原で育てた乳牛から搾った牛乳を、低温でじっくりと殺菌し、一切手を加えないで販売する『ミルン牧場』の代表、横尾文三さん。毎日の販売数を限定し、すべての工程を手作りで、濃厚でほんのりと甘い自然のままの味がする牛乳を届ける横尾さんは、卓越した加工技術でチーズやヨーグルトなどの乳製品も製造。その牛乳や乳製品は、多くの人々から“絶品”と支持されている。
「父は農業を営んでいたのですが、私は農業高校を卒業後、どうしても酪農をやりたくて、20歳の頃に北海道の牛を一頭、買ったんですよ。当時の酪農を取り巻く環境は、卵のように牛乳の価格が安定しているなど、とってもイイ時代だったんですよね」。そうして一頭の牛から始まった横尾さんの酪農人生は、ある時期に180°転換したという。
「以前、大手メーカーが主催する牛乳の品質を競う大会で、日本一に選ばれたことがあるのですが、メーカーに原材料として牛乳を卸している限り、いくら自分が優れた牛乳を生産しても、他の牧場の牛乳と混ぜられて販売されるんですよ。それからはメーカーに牛乳を卸すのではなく、自分の牧場のブランド名で売るようになりました」。以来、横尾さんは、乳脂肪中の脂肪球を細かく砕かず、均質化(ホモジナイズ)していない『ノンホモ牛乳』と呼ばれる牛乳を生産。その牛乳本来の味がする『ノンホモ牛乳』は性質上、乳脂肪分(生クリーム)が浮上することもあるのだが、横尾さんは「腐っていると間違われることもある」と笑う。
「この方法では、市販されている高温瞬間殺菌された牛乳に比べて、時間がかかり少量しか生産できないというデメリットがあるんですが、私は牛を飼った時から『少量でも本物を』『自然のモノは自然のままに』という二つの大きな想いがあったんですよ。いまは酪農が厳しい時代だといわれていますが、ただ売れないと嘆くだけでなく、やはり酪農家が、自分たちの生産した牛乳に込めた想いをキチンと表現して、消費者を味方に付けていくという活動が大事なのではないでしょうか」。そんな横尾さんは牧場を開放し、誰でも乳牛たちと触れ合える機会を提供するなど、その味だけではない牛乳の魅力を伝える活動に、早くから尽力してきたという。
「本物の牛乳の味はこんなに美味しいんですよ〜本物の牛乳はこんなに健康にイイんですよ〜と。神様が作ったような、その素晴らしい牛乳本来の魅力を伝えることは私たち酪農家の使命だと思いますからね。私は本当に牛乳に惚れているんですよ」。誰よりも牛乳が大好きで、誰よりも本物の味を知る横尾さんの酪農への想いは、誰よりも強い。
「牛は飼育環境や飼料の配合などを考えながら人間の子どものように大事に育てると、本当に美味しい牛乳を出してくれるんですよ。子どもの頃から英才教育ですよ(笑)」。そんな横尾さんの座右の銘は、『温故知新』。昔ながらの酪農を学び、現代の酪農に生かしながら進化する『ミルン牧場』の牛乳は、本当に皆に飲んで欲しい、そして、本物の味を知って欲しいと、皆に勧めたくなる味をしていた。
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