匠の蔵~words of meister~の放送

花鏨【彫金家 佐賀】 匠:有馬武男さん
2011年09月24日(土)オンエア
唐津にある築190年の古民家に工房を構える彫金家、有馬武男さん。有馬さんは、西洋的なジュエリーの技法と、日本古来の「金工」の技法を融合した和のスタイルを追及。彫金に用いる道具である鏨と、そこから生み出される作品を花になぞらえ、「花鏨」というブランド名で、時代を越えて親しまれてきた工芸の美を現代に表現している。「金工とは奈良時代に日本に伝わった技術を基に、日本独自に開花した彫金の技法です。刀剣や甲冑の装飾、建築装飾、生活器などに至るまで用いられてきましたが、現在では生活器より刀剣、茶道具などの限られた分野のみ需要を残しています」。有馬さんは、その技術を帯留めなどの和装小物から指輪やブローチ、ペンダントなどにも表現。それぞれの装飾に合わせた鏨を操り、一つ一つの作品に生命を吹き込んでいる。「彫金は鏨を駆使しながら模様を掘り出していくのですが、その鏨を金に打ち込む音で、腕の良し悪しが分かるんですよね。鏨が真っ直ぐに地金に入っていないと不快な音が出ますので、音の良し悪しは作品の出来上がりに大きく作用します」。有馬さんは以前、東京・銀座の宝飾店でジュエリーデザイナーをしていたそうだが、デザインと完成品とイメージにギャップを感じ、分業が当たり前の分野において、デザインから製作までのすべての工程を自の手で行うようになったという。「デザインを描く時に、自分なりのイメージというのがありますよね。しかし、絵や図面だけでは、おそらく作って下さる方には、すべて伝わらないと思うんですよ。それなら自分でデザインして製作も行った方がイイと。それに、その方がすべての工程が自分の手の中で行われますので、やはり面白さがありますよね。結局、分業にしてしまうと作品の出来上がりが悪い場合、デザイナーは職人さんに責任転嫁できますし、反対に市場に出して売れなかった場合、今度はデザイナーに責任転嫁できますからね。一人でこなすと、すべてが自分に跳ね返ってきますし、それと一点ずつ、すべて手作りしていますので、必ず修理出来るようになりますからね」。有馬さんは宝飾店で働きながら夜間、学びながら金工の技法を習得。そうして、言い訳できる隙を与えず、自らの作品に責任を持ちたいと、人一倍の努力を積み重ねてきたという。その姿勢からは、優しげな容姿と繊細な仕事からは想像もできない、九州男児たる無骨さを感じた。

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