風光明媚な由布院の街はずれにある自家製ハム・ソーセージの店「由布院燻製工房 燻家」の松山光伸さん。隣町の玖珠町で精肉店を営む両親のもと、平成12年に弟と由布院でスモーク店を開業。平成18年にはレストランも併設し、出来たてのハム・ソーセージを客に提供している。そんな「燻家」のスモークの味付けは出来る限り素朴な薄味。吟味された天然スパイスも使用量は少なめで、精肉店ならではの厳選した素材の持ち味が、最大限に引き出されている。「もとは精肉店ですから素材の良さには自信を持っています。そして、その素材の良さを知っているだけに、手を加え過ぎないように毎日が我慢です。加工食品の世界では、どうしてもアレもコレもと手を加えたくなるのですが、僕らは毎回、素材の良さが消えないように、素材の力とスモークの力の最大公約数を見極める努力をしています」。そんな「燻家」のハム・ソーセージには、○○風といった肩書きはない。あるとすれば、それはまさに燻家風。「ハム・ソーセージの世界では、意外に本場のスペイン風やドイツ風といったモノが多いのですが、私たちが店を始めた時のコンセプトというのは、小さい子からお年寄りまで、日本人の誰もが毎日食べられるハム・ソーセージというものだったんですよね。色々と食べ比べて研究したのですが、一つの味…本場の味に偏ると、どうしても香辛料が強かったり、熟成で日本人が使わないような酒を使ったりとかしますので、その土地に旅行に行って食べるのなら凄く美味しいのですが、日本で毎日食べるのには合わないと思ったんですよね。ですから私たちは、決して和風という訳ではなく、由布院という街の土地の気候風土に合わせた燻家風のハム・ソーセージを作ろうということで今までやってきています」。本場の味といった具合に、個性を前面に押し出さないと、大抵はどこででも食べられる凡庸とした味になってしまう。しかし、「燻家」の味は、決して個性がない訳ではない。松山さんが追求するその味は、日本人の誰もが受け入れる唯一無二の「燻家」の個性として、由布院を訪れる観光客のみならず、多くの地元の人たちからも愛されている。「地元の人に愛されていないと、観光客にもお奨めして貰えないし、誰からも愛されないと思うんですよね。僕らは由布院でハム・ソーセージを作っているのですから、その根っこは、もちろん由布院にあります」。そんな「燻家」では、地元の名産品・豊後牛のスモークや地元で獲れた鹿肉のスモークも販売。ここでしか生まれない、その燻家風のハム・ソーセージたちは、いつしか由布院風と呼ばれるようになるのかも知れない。
| 前のページ |