化学物質を使用しない土に帰る自然素材で、家や店の壁をデザインする「田崎左官」の田崎龍司さん。田崎さんは、自らが化学物質過敏症となった経験から、人と環境に優しい循環型の建物造りを目指し、様々な活動を行っている。「人間が一番安らげる場所である家は、やはり人と地球に優しい素材で造られるべきだと思います。新築の良い匂いとされているものは、その殆どが防腐剤などの化学物質の匂いなんですよね。そして、そんな化学物質が使われた家は、壊された時、自然に帰る事が出来ず、ゴミとなってしまうんです」。そんな田崎さんが手掛るモダンな土壁で彩られた家は、優しい雰囲気に包まれ、足を踏み入れた人の心を落ち着かせる。「土壁は乾くのに時間がかかる為、工期が長くなり、予算が少し高くなるという側面を持っています。しかし、長い目で見れば、決して高くないと思うんですよね。新建材で家を建てると、30何年ローンを払い終わる頃には、もう一度建て替えなくてはならなくなるように、出来上がった時が100%で、後は悪くなっていく一方ですよね。しかし、土壁の家でしたら、出来上がった時は60%か70%位かも知れませんが、住み続ける事によって、味わいが出るというか成長し、100%へ近づいていくんですよ」。大事に住んでいる気持ちは、そこに積っていく様々な想い出と共に味わいへと変わる。どう住んで、どう暮らしていくかによって、家はどんどん変わっていく。「家には人柄が出ます。お金を沢山かけたから良い家ではなく、良い家は住む人が作っていくものだと思います。私も若い頃は、自分が仕上げる事で満足していたのですが、今は、お施主さんが健康で長生きしてくれる事が一番の満足です。住むのは私ではなく、お施主さんの方ですからね」。そんな田崎さんは、家を造ったら造りっぱなしではなく、時々、顔を出し、家の状態を確かめているそうだ。「悪くなっていたらそこを直す。造った者の責任として、それはいつまでもやっていきたいですよね」。
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