佐賀の伝統銘菓『徳永飴』を江戸時代より製造する老舗菓子舗『元祖徳永飴総本舗』の8代目、江口輝海さん。もち米を主原料に、砂糖や添加物を使わず、麦芽のみで甘味を引き出す『徳永飴』は、約200年前から佐賀市金立町徳永地区の家庭などで作られてきた『あめがた』と呼ばれる郷土菓子で、戦前、戦後は栄養補給食品として、産後の滋養食品として愛されてきたが、現在は自然食品として静かなブームとなっている。
「米どころである佐賀では、昔から『あめがた』作りが盛んに行なわれてきました。最盛期には『あめがた組合』が設立されるなど、県内に約60もの専門店があったほどなんですよ」。しかし、現在、徳永地区で『あめがた』を販売するのは、江口さんの店を含め2軒のみ。洋菓子が好まれるようなった時代背景に加え、機械によって大量に作られた安価な商品に押され、需要が縮小していったという。
「今は、ただ良い商品を作れば売れるという時代ではありません。ですから一昨年には『抹茶味』『しょうが黒糖味』『サツマイモ味』の3種類の新商品を開発しました。また、食べやすさを考え、ひと口サイズの『あめがた』も製造するなど、少しでも若い人にも『あめがた』を手に取ってもらえるように工夫しています」。そんな江口さんは70歳を越えた今もなお、機械の力を借りずに、自らの手によって『あめがた』を練り上げるなど、昔ながらの伝統製法を頑なに守り続ける。
「最後は結局、自分がどれだけお客さんの気持ちになって、モノ作りが出来るかどうかだと思います。要するに儲かろうという考えで作っては駄目だということです。お客さんの為に、これだったら納得してもらえる、喜んでもらえるというレベルに『あめがた』をもっていくことに、私は常に神経を集中しています。もちろん商売ですから儲からなくてはいけません。しかし、儲けが先に行ってモノ作りをしていたら、絶対に失敗しますからね」そんな江口さんは自らの仕事を「商品作りではなく、作品作り」だと断言する。
「商品を自らの作品だと考えれば、その作品の主役である中身を、いい加減に作るような仕事は絶対に出来ないはずです。例えばパッケージが着物だとすれば、見栄えの良いように着物にお金をかけて、中身にお金をかけないというようなことは出来ませんよね。ですから私は、商品作りは作品作りだと考え、常に中身で勝負するという気持ちを仕事の基本に置いています。パッケージは、ただのパッケージですからね」。小学生に頃から家業を手伝い、約60年もの間、何よりも儲けより、客のこと第一に考え、『あめがた』を製造してきた江口さん。そんな江口さんの作る『あめがた』は、客の体だけでなく、心までも元気にする力をもっている。
「『あめがた』は一つの魂ですね。仏作って魂入らずではなく、やはり入れていかなくてはいけません。儲けてビルを建てることよりも、やはり職人にとっては、魂のある商品作りが一番、大事なんですよ」。
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