谷川の流れを利用して陶土を突く、“唐臼(からうす)”の音がギッコンバッタンと鳴り響く日田市の山間の集落で制作されている小鹿田焼の陶工・坂本工(たくみ)さん。「日本民芸館展」の最高賞を2度も受賞するなど、まさにその名の如く匠の技が光る作品を生み出している坂本さんは、「小鹿田焼は、今も自然の登り窯を使い、機械なら30分で出来るものを手仕事で1ヶ月かけて作っている」と言う。 “飛び鉋(かんな)”や“櫛目(くしめ)”などの独特な装飾を持ち、素朴な味わいで日常使いの器として300年以上も昔から人々に愛されてきた小鹿焼。それは、陶磁器のように繊細でカラフルな物ではないが、大自然にどっぷりと浸かった、とても温かみのある陶器として知られ、地元の土が本来持つ性質や、本来成すべき形というのが重要視されている。「小鹿田焼以外の殆どの焼物は、耐火度を上げたり、ロスを少なくしたりする為に、地元以外の土を混ぜて制作しています。しかし、地元以外の土を混ぜると土の性格が変わるため、その形が不自然なものとなり土地柄が無くなってしまうんですよね我々が混ぜ土をしない理由は、土がなりたい形というのが何処かにあるからです。形は人間が決めるのではなく、材料が決めるんですよね。ですから、我々の一番の仕事は、土が求める形に近づける事だと思っています」。効率を求めず、そして、景気や流行に流されることなく自然に身を任せ、ひっそりと力強く伝統の窯の火を守り続ける坂本さん。その技術の真髄は、日常使いの器としての“用の美”を追求することにある。「器と言うのは、料理が乗せられて完成ですから、制作する時に料理分、何処かを抜かないといけないですよね。足りないところで完成させる。それが物凄く難しいですね。模様入れ過ぎたり、形をイジリ過ぎたりしながら、少しずつシンプルに削って行く…言うのは簡単ですが、やるのは至難の技なんですね」。あえて、どんな料理にも簡単に合うであろう...模様のない、白くて平凡な形の器では駄目なのかと聞くと、坂本さんは、「主張する料理ならそれでも良いが、主張しない料理ならそれは駄目だ」と言う。焼酎と一緒で、それは、どんな料理と一緒になるのか分からない。料理が来た時に、お互いを引き立てる最大公約数になる。それは、やはり至難の技に違いない。「我々の焼物は自然と密接な関係がありますから、時々、自然の脅威や奇跡などが見える事があるんですよ。それは凄く感動的で、人を惹き付けるものがある...やはり焼物作りは辞められないですよね」。
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