匠の蔵~words of meister~の放送

大工 池上算規 [大工 長崎] 匠:池上算規さん
2008年09月20日(土)オンエア
長崎の大村湾を見渡す高台に作業場を構える大工・池上算規さん。以前、働いていた工務店で、「大工でさえ体を壊してしまうような防腐剤にまみれた建材で、人の住む家を造り続けてよいのだろうか」と疑問を感じ、自然素材を使用した古くから日本に伝わる工法による家造りを始める。「今の産業廃棄物の殆どが建築資材から生まれる廃材なんですよね。そして、その廃材は土に帰る事が出来ません。ですから私は土に帰る素材で家造りを行おうと考えました。自分達の作ったモノが壊された時、ゴミとなって残されたら子供達に申し訳ないですからね」。そんな池上さんのこだわりは、使用する材木の産地にも表れている。「私は県産材しか使いません。例え立派な木であっても、その土地の風土にあっていなければ、ねじれてしまいますからね」。最近よく耳にする地産地消は、何も料理の世界だけの話ではない。「県産材を使う前までは、当然、材木屋さんから木を買っていたのですが、それは、食べ物に置き換えてみると、パック入りの切り身の魚を買っているのと一緒なんですよね。それで、自分で実際に山に入り、生きている木を見てみようと考えたんです。そうすると同じ山のすぐ隣に生えている木でも、一つ一つ性格が違うんですよね。しかし、いざ自分の目で確かめた県産材を使おうと思っても、海外から安い材木が入ってくる現在は、山から木を切り出すだけで損をするんです。ですから自分の考えを説明し、賛同してくれる製材所を見つける事は大変でした」。そんな苦労の末に県産材を使い始めた池上さんは、その工程で、心の中に新たな感情が生まれたと言う。「これまで何年も大工を続けて来て、初めて木を切り倒す所を生で見たのですが、物凄くドス〜ンと体に響いて来るものがあったんですよね。本当に木を無駄に出来ないし、無駄にしては駄目だという思いが強くなりました。それからは建て主さんにも、木を切り倒す所から見て貰うようになりました。木の命を頂いて家を建てているという事を実感して頂く事で、やはり家を大事にしようと思う気持ちが生まれると思いますから」。加工される前の姿を見ると、命の強さ、素材の大切さを改めて感じるものだ。そして、それを見る事で、それを活かす為に一生懸命になろうとする。その命の力強さ、大切さに敬意を払う。そんな池上さんは、大村市で建てた家が評価され、2006年に長崎県木造住宅コンクールで優秀賞を受賞。さらに「田崎左官」の田崎龍司さんが主宰する「循環型たてもの研究塾」に参加し、人と環境に優しい建物造りの和を広げる活動を行っている。「将来は漁師をやりたいんですよね。朝陽を浴びながら漁に出て、夕陽を背に帰ってくる。素敵だと思いませんか」。

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