とてもじゃないが、還暦を超えているようには見えない。お若いですね、と話しかけてみると、「食事が良いからですよ」。この人こそ、五島名物「箱フグの味噌焼き」のレシピを考案した宮本紀行さんである。「中学を卒業してから関西へ修行に出たんですが、何度も辞めようと思いました。でも2、3年経つと、もったいないと考えるようになったんです。とにかく働いて、一日が濃かったですね。今の人はよく自分探しなんて言ってますが、これしかできないことも素晴らしいことですよ」。ひとつの道を、ひたすら邁進してきたからこそ、独創的な「箱フグの味噌焼き」は生まれたのである。 宮本さんには、ひとつの真理がある。「いかに腕が良くても、素材に勝る味なし、です。五島の海は潮の流れが速い。だから、そこで泳いで育った魚は身が張っています。肉質が輝いていますよ」。最高の素材を知り尽くし、最上のかたちで提供しているという自負。それは、たゆまぬ向上心が支えとなっている。ちなみに『か乃う』という店名は「可能」が転じたもの。ひたすら挑戦あるのみという、宮本さんらしい心意気が込められている。
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