福岡観光の拠点として快適な空間とサービスを提供する『ANAクラウンプラザホテル福岡』の『クラウンカフェ』の副料理長として活躍する傍ら、『氷彫刻世界大会』で2度の優勝歴を誇る氷彫刻師、秦武日児さん。リアルさを徹底的に追求した圧倒的な存在感を放つ氷彫刻を制作し、ウェディングを始めとする様々なパーティー会場を華やかに演出する。
「以前、勤めていたホテルに九州の氷彫刻の第一人者がいたのですが、後に師匠となるその方との出会いによって、氷彫刻に興味を抱くようになりました。その頃、私には中華料理の飾り包丁をやっていたぐらいの技術しかありませんでしたが、その美しさに一瞬で魅了されてしまったんですよね」。それは秦さんが25歳の頃。師匠から「ノミやノコギリなどの道具を、自分で揃えてやってみろ」と言われ、見よう見まねで技術を吸収していったという。
「氷彫刻は元々、料理を美味しく冷やす為に生まれたフランス料理の演出の一つなんですよ。現在は世界中で様々な氷彫刻の大会が開かれていて、私の尊敬する北海道の氷彫刻師は夏の間は農家として野菜を栽培し、大地が雪に覆われる冬は大会に参加する為、世界中を飛び回っているそうです」。ちなみに日本人の氷彫刻の技術は世界的にも高い評価を得ているそうで、秦さんは氷彫刻を始めて10年目に世界大会で優勝することができたという。
「私が氷彫刻を制作する上で一番気をつけていることは、作品全体の流れというかバランスですね。人体でも動物でもモチーフとなるモノの体のバランスが重要だと思っていますので、私は腕の長さだったり、手の大きさだったりを骨格から勉強して、デッサンをする時は骨から描くんですよ。そうしてその上に肉を付けて衣装を着せていきます。また氷彫刻は平面ではありませんので、作品の奥行きなども、骨から描くことでイメージしやすくなりますからね。ですから作品そのモノを目で見た感覚だけで捉えるのではなく、中身から捉えると。そうしないとバランスが狂ってしまいますし、納得できるモノが生まれないような気がします」。人もそうだが氷彫刻も、やはり中身がしっかりしてないと美しさは生まれない。そんな秦さんが中身から美しさをつくりあげる氷彫刻は、時間の経過と共に様々な表情を見せ、変化していく姿から『一期一会の芸術』とも呼ばれていた。
「様々なパーティー会場を華やかに彩る氷彫刻ですが、素材が氷である以上、時間の経過と共に溶けていきますよね。ですから私たちは2時間後、3時間後でも例えば作品の首が折れたり、取れたりしないようにつくらなくてはなりません。しかし最初から首を太くつくると恰好悪いので、きれいに見えて強度も保てるように、そのギリギリのところを常に狙っています」。各種イベントやパーティーなどでライブでも氷彫刻を制作し、その繊細かつ芸術性の高い作品の美しさのみならず、華麗なパフォーマンスでも多くの人々を魅了する秦さん。その座右の銘は『やればできる』『為せば成る、為さねば成らぬ何事も』という、秦さんの氷彫刻にかけてきた人生そのモノを表現したかのような言葉だった。
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