匠の蔵~words of meister~の放送

石橋屋【こんにゃく 福岡】 匠:石橋渉さん
2012年08月28日(火)オンエア
偶然にも番地が529=こんにゃくという大牟田市の山あい、清らかな湧き水が溢れ出るその地でこんにゃくを製造する『石橋屋』の代表、石橋渉さん。創業明治10年、4代目の石橋さんは、1955年に業界に打ち寄せる機械化の波と、身を削るような価格競争に直面し、『価格』ではなく『価値』を売ることに方向転換。殆どの機械を処分し、現在では全国でも数軒しか残っていない『バタ練り』という昔ながらの製法に回帰する。「バタ練りとは、バタバタと音を立てて回る金属の羽根が取り付けられた箱に原料を入れ、手で練り上げていく製法です。こんにゃくの原料である芋は、一つ一つ性質が違いますので、それぞれ1回目と2回目、2回目と3回目のレシピでは、スピードや分数が変わってきます。もちろん、そこをある程度、データ化しているのですが、やはり最後は人の手の感覚で仕上げなければいけません。大体1分から1分半くらいで、こんにゃくに仕上がっていくのですが、最後の5秒...ここで止めるか止めないかの見極めが、職人の腕のみせどころと言いますか、味の差になって現れる部分なんですよ。そこは、やはり経験と、毎日のこんにゃく作りで培われてきた感覚が大事になってきます。ウチは100年以上続いているこんにゃく屋ですから、この製法が出来るという訳ですね」。そのこんにゃくは、味染みの良さと独特の歯応えが特徴で、噛むとどこか懐かしい味が口に広がる。「私どもの作るこんにゃくはブランドではないんですよね。こんにゃくというのは9割が群馬県で生産されています。また、手作りと言ってもバタ練りという機会を入れていますから、そこも謳っていません。そして、原料も生芋100%ではないんですよね。ウンチクが謳える部分が何もないのですが、やはりこんにゃくは食べ物ですから最終的には味だと、食べて頂いてからの問題だと。ただ単に、『あっこれは少し変わっているね』『美味しいね』くらいだとリピート客はつきませんよね。やはり食べたお客様に感動を与える、他社とまるで違うと感じさせることの出来るこんにゃく作りを、私たちは徹底的にこだわっています」。シンプルに『食べ物だから』と、味で勝負する石橋さん。客に感動を与える味を生み出す『石橋屋』の技や製法は、ウンチクを語る為にあるのではなく、口に美味しい味を生み出す為だけにある。「やはり食べ物ですから最終的には味だと。こだわりというよりも、まず食べたお客様が、『これは美味しい』と言ってくださるかどうかですよね。私たちは、それを作る為には、どういう作り方、どういう行程をしなくてはいけないかということを、反対に下げていくだけだと思います」。そんな石橋さんは、数年前から日本全国はもとより、東南アジア、アメリカ、ヨーロッパ各国など、海外でも飛び込みで営業活動を展開。現在、『石橋屋』には、全国の百貨店や高級スーパーだけではなく、海外からも数多くの注文が入るという。世界がその味を認めた『石橋屋』のこんにゃく。その日本伝統の味を守り続ける石橋さんは、親しみと畏敬の念を持って、『ミスター・コンニャク』という愛称で呼ばれていた。

| 前のページ |


| 前のページ |