匠の蔵~words of meister~の放送

フランス菓子 16区【パティシエ 福岡】 匠:三嶋隆夫さん
2011年10月08日(土)オンエア
本場フランスでも作られている全国区の焼き菓子「ダックワーズ」の生みの親「フランス菓子 16区」のオーナー・パティシエ、三嶋隆夫さん。三嶋さんは大学卒業後「帝国ホテル」に入社。結婚後、ヨーロッパに渡り、女優カトリーヌ・ドヌーブを顧客に持つフランスの名店「アクトゥール」で日本人初のシェフを務めるなど4年半、菓子職人としての修行を重ねた後に帰国。1980年に子どもの頃に遊んだ思い出の場所である福岡市の閑静な住宅街で、「アクトゥール」の所在地である「16区」の名を冠した自らの店をオープンさせる。「アーモンド生地にクリームをサンドしたダックワーズはアクトゥールで、カトリーヌ・ドヌーブに出す為に開発したお菓子なんですよ。和菓子の最中のようなモノを洋菓子で作りたいと思い生まれました。後で本人が美味しかったとお礼に来られたのですが、当時は日本人が作ったということを知らせない方が良いと自らで考え、挨拶するのを固辞したのを覚えています」。その後も、「ダックワーズ」の他、「ブルーベリーパイ」「ムース・カシス」など、様々な定番ヒット商品を生み出している三嶋さん。そのお菓子たちには、三嶋さんの共通する想いが込められている。「私のお菓子は流行に走ったり、味に関係のないところで凝ったりすることはありません。シンプルな仕上げの中に、いかに良いお菓子を作れるかという一点にのみ力を注いでいます」。オープン以来、頑なにその姿勢を貫き、素材に関しても生産農家と直接契約を結ぶなど、妥協のない厳しい目で選んでいる三嶋さん。それは当然、仕事に対する姿勢にも表れている。「私はキチンとした仕事を一から十まで全部することが大事だと考えています。私の店では、プリンやシュー、パイなどの生地も、その日に売る商品はすべて、その日の朝に焼きます。今は冷凍素材や、業者が作った生地などを使ったお菓子が、平気に流通していますが、そのようなことをしていては、自分で『私はパティシエです』と胸を張って言えないと思うんですよね。客さんの顔を堂々と見て、『いらっしゃいませ〜』と言えないと思うんですよね。儲けに走るのではなく、武骨であっても鈍重であっても、やはり私はパティシエである以上。すべてをキチンと自分で作りたいと思っています」。素材の鮮度を大切に、すべてを自らの手で作り、すべてを自らの目の届く範囲で売る。全国屈指の名店として名を馳せる一方、決して多店舗化することなく、武骨に鈍重に歩み続けてきた三嶋さん。その言葉には、パティシエとしての誇りとプライドが満ち溢れていた。「仕事が細かいというのは愛情ですよね。私は若い職人に、『お客さんの笑顔を想像して仕事しているか?』とよく言います。例えば、バースデーケーキを囲んで『わ〜お父さん、お母さんありがとう』と笑顔になる家族の姿、その瞬間の絵を想像すると、細かい仕事が苦にならず、むしろ細かい仕事を楽しんで出来ると思うんですよね。楽しんで仕事をすれば、お客さんの為になる。そんな細かい仕事をすることが、私たちのやれること、やらなければいけないことだと思います」。何かを作る、売るのが仕事であれば、やはり、その何かを食べる、使う人の姿を想像することは大事。ジョン・レノンの歌に「想像してごらん」という詞もあるが、人はその先にあるモノを想像することによって、あらゆる困難を克服することができる。

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