匠の蔵~words of meister~の放送

Atelier Oki【フランス料理店 福岡】 匠:沖克洋さん
2016年04月09日(土)オンエア
フランス式の調理法に捉われない、フレンチの枠を超えた料理とサービスで客をもてなすフランス料理店『Atelier Oki』のオーナーシェフ、沖克洋さん。独学でフレンチを極め、数々の有名フレンチレストランのプロデュースを手掛けた後、2006年9月に自らの店をオープン。自分の家に誰かを招き、『Oki流』の料理を振る舞う感覚を大事にしたいと、店名にレストランやビストロではなくアトリエと名付け、家庭的な雰囲気の店内で、『医食同源』がコンセプトの自然の恵みを生かした料理を提供する。
「子どもの頃から料理をつくるのが大好きでした。でも、その料理を食べて喜んでくれる人の笑顔を見るのが、もっと大好きだったんですよね。それが料理人としての僕の原点だと思います」。そんな沖さんは15歳の時にファミリーレストランでアルバイトをスタート。毎日バイト開始の30分から1時間前には店に入っていたという。
「その頃は家にいるよりバイト先にいる方が楽しかったですからね。それと少しでも上司に気に入られて料理をつくらせてもらいたいという下心もありました。そのおかげで皆からは『15歳』というアダ名で呼ばれて可愛がってもらいましたよ」。その後、沖さんは個人経営の洋食屋を経て、19歳で福岡市の大名にあるフレンチ専門店で働くように。
「当時はパスタといえばミートとナポリタンしかないような時代でした。そんな中でホワイトソースに生クリームといった素材を使うフランス料理に新しさを感じて、自分が目指す料理はコレだと。あと単純に白いコックコートを着て高いコック帽を被って、ブランデーでフランベする姿なんて、誰でも格好イイと思うじゃないですか。フランス料理というのは日本人にとって非日常な料理でしたから、若い頃は『これどうやって作ったと?』と聞かれるような料理をつくる優越感に浸りたかったんでしょうね。僕は人に感動やサプライズを提供するマジシャンに本気で嫉妬してしまうような性格でしたからね」。そうして沖さんは何の知識もないところからフランス料理の勉強を開始。過酷な修行の合間も必死にフランス語の辞書やフランス料理の関連書を読み漁り、後に自ら『Oki流』と名付けることになる、独自の料理の腕を磨いていったという。
「フランス料理には、例えば『何とかステーキ・ヘンリー4世風』や『エスカルゴ・ブルゴーニュ風』といったように、それぞれの料理に地方の名前や人の名前などが必ず付くんですよ。ですから僕もフランス料理の技法や調理法、食材を使いながらも自分なりのスタイルを確立しようと。ですから『Oki流』というのは、そんな僕の食生活や食文化、育った環境や歩んできた歴史の集大成ともいえる料理なんですよね」。そうして自らの名前を冠する以上、「これがフランス流だから」とか「フランスではこうだ」とか、一切言い逃れができないという沖さん。そんな自らの生き様を皿の上で表現する沖さんの覚悟は、『Oki流』という唯一無二の味付けとなって、福岡のみならず全国の『Atelier Oki』ファンの舌を楽しませていた。
「自分自身を研究して、自分の料理をどこまで高めていくことができるのか。それは唯一、自分しかできないことですからね」。そんな沖さんは客へのサービスの在り方にも『Oki流』を貫いているという。
「それぞれのテーブルには、それぞれ僕の店を選んでくれた理由がありますよね。ファミリーで、ご夫婦で、そして仕事関係の間柄でと、それぞれのテーブルで誰がホストで誰がゲストで、誰が誰に気を使っているのかも様々です。ですから僕らはそこを察知したサービスを提供しなければならないと思っています。例えば料理を美味しいと思って大切な人を連れてきてくれたお客様は、その人を喜ばせようと思ってウチを選んでいる訳じゃないですか。だったら連れてきたお客様が『ありがとう』と褒められるようなサービスの在り方があると思うんです。そうするとお客様もお金出した甲斐があったなと、ここを選んで良かったなという気持ちになりますし。そういう見えない部分にまで行き届くサービスはマニュアルでは絶対にできませんからね。そんなそれぞれのテーブルで100通りも1000通りも違う空気をキチンと感じ取って対応するのが『Oki流』のサービスです」。料理の世界に入って30余年、今では不味い料理を作ることの方が難しいと、『美味しかった』の先にある『楽しかった』という言葉を客から頂くことが一番の喜びだと、満面の笑顔で語る沖さん。そんな沖さんの店は、いつもそれぞれのテーブルに笑顔の花が咲いている。
「大きな失敗ではないんですけどね。少しでも『もっとこうしてくれたら良かったのにね』って思われるのは、僕らにとっては失敗なんですよ。お客様に大満足して頂けなければ失敗だと思って、もっと出来たハズ、もっと出来たハズと常に気を抜いてなければ、間違いなく喜んで帰って頂けると思っています」。そんな沖さんの座右の銘は、料理のコンセプトである『医食同源』と、独学でフレンチを極めた自らの歩んできた道を表現したような『虎穴に入らずんば虎子を得ず』という言葉だった。

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