由布市の閑静な住宅街に工房を構えるガラス作家、三河祐子さん。古代メソポタミア時代から伝わる幻の技法、パート・ド・ヴェール技法により、生命力溢れるガラスのアクセサリーや器を制作する。
「フランス語で『ガラスの練り粉』という意味をもつパート・ド・ヴェールは、日本でも勾玉などの制作に使われていたと思われる技法です。作りたいモノの原型を粘土で作り、石膏でとった型にガラスの素材を流し込んで、低温で時間をかけて焼き上げるという方法で制作される為、量産できる吹きガラスの登場と共に衰退したのですが、19世紀末のアール・ヌーヴォーの時代にフランスの陶芸家の手で甦りました。しかし、当時は個人作家の秘法とされていた為に再び衰退し、20〜30年前からようやく作家の数が増えてきました」。三河さんは大学4年生の冬に訪れた『北澤美術館』で、エミール・ガレやドームといったアール・ヌーヴォーを代表するガラス作家たちの作品に出会い衝撃を受け、家に戻った翌日には行動を起していたという。
「当時は東京の大学の教育学部で学んでいたのですが、自分の探し求めていたモノはコレだと思い、翌日に本屋で関連書籍を求め、その翌日にはパート・ド・ヴェールの技法を学べる学校に問合せをし、さらに翌日には見学、面接と行動を起していました。いま振り返ってみると、すべてのタイミングがパート・ド・ヴェールの世界に入ることを後押ししてくれていたような運命的な何かを感じています」。そうして大学卒業後、三河さんは専門学校でパート・ド・ヴェールの技法を学び、石川県能登の工房で修行。首都圏や海外の工房などからの誘いを断り、約20年前に故郷である大分に工房を開いたという。
「大分に帰ってきて、改めて故郷の自然の美しさや人の温かさを再認識することができたんですよね。それまで、どこか物足りなかった感覚を満たしてくれたこの場所で、自分の中に自然に沸き上がるモノを形にしたいと、とにかくいまは手を止めることなく、作品を作っていこうと思っています」。
そんな三河さんの作品には、共通する特徴があるという。
「私の作品は普通です。作家によって、様々な個性的な作品が作られていますが、その中で見たら私の作品は本当に普通だなと思うんですよ。最初は、その普通というのか素朴な感じが、好きではなかったのですが、世の中には普段、ギャラリーに足を運ばれないような普通の感覚をもった方がたくさんいらっしゃいますよね。ですから私は、そんな普通な方が喜んで気に入ってもらえるモノを作っていきたいな〜と思っています。パート・ド・ヴェールというと、美術工芸品や装飾品というような高価なモノというイメージが強いのですが、そうではなくて、普通にお家にポンと『これパート・ド・ヴェールのお皿よ』って、置いていただけるような作品でありたいなと思っています」。それは、飾られて輝くのではなく、人が身につけ、人が使ってこそ本物の輝きを放つガラス。三河さんが普通だと語るガラスは、日常に普通ではない潤いを与えてくれるモノだった。
「先日、久住高原の小さなカフェで展示会を行ったのですが、50代ぐらいの方が農作業か何かの帰りに、作業着のままギャラリーを訪れて、娘さんの為に一生懸命、ネックレスを選んでくれたんですよね。どんな方が選んでくださっても嬉しいのですが、その姿を見て『もう1個持っていってください』と言ってしまいたくなるほど本当に嬉しくなって。その方は以前、娘さんが『可愛かった』と言っていたのを聞いて訪れてくれたそうなんですが、そんな普段は多分、ギャラリーに足を運ばれないような方にも知ってもらって、身近に楽しんでもらえるようなガラスが、これからも作れたらイイな〜って思います」。
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