菊池市に自生する藤や葛、アケビなどのかずらを編み、籠をはじめ、オブジェやタペストリー、ランプシェードなど、暮らしを彩る数々のインテリア商品を制作する工房『櫨かずら』を主宰する櫨川久美子さん。「約20年前に熊本の伝統工芸館で見た、かずら編みのタペストリーに刺激を受けて、自分でもやってみようと思ったのがキッカケなんですよね。それから半年間、プロの指導を受けた後、麦わら帽子やミサンガなどの編み方を研究することから始め、徐々に自由で独創的な作風を構築してきました。初めは自分の為だけに編んでいたのですが、個展などを通して作品が友人たちの目に留まり、依頼を受けるようになってきたという訳です」。そうして現在は、納屋を改築したモダンな古民家風のオープンギャラリー兼工房で、日々、自然の中で育まれた素材の持ち味を活かし、実用性とオリジナリティ溢れるデザイン性を兼ね備えた作品を制作する。「かずらというのは自然に曲がっていたり、大きさも太いところや細いところがあったり、本当に様々な個性があるんですよね。ですから、そういう個性を活かして編むところが、かずら編みの面白さだと思います。かずらって古い家に合うイメージだと思うのですが、決してそんなことはなく、モダンな部屋に自然の素材のモノを取り入れて、お洒落に飾るという感覚もイイと思うんですよね。例え実用的な作品でも、昔の生活の中で役に立つモノではなく、置く場所であったり空間であったり、今の生活の中で役に立つモノを作っていかなければならないと思っています」。いくら伝統にこだわっても、人の生活に寄り添うモノやデザインは、その時代、時代の中で光り輝くモノでなければ消えてゆく。「去年、かずらで違うモノを作ろうと思って、布のバッグを内張りした脱衣カゴを作ったんです。コインランドリーに、そのまま持っていってもお洒落なバッグ。インテリアとして家に置いていても、存在感があるような脱衣カゴを作ったんですよね」。そんな現代人の生活を華やかに彩る櫨川さんの作品は、イマドキながらも普遍的な自然の魅力を湛えていた。「自然が大好きなんですよね。朽ちていくのも自然でイイし。かずらを編むことで、自然と自分が繋がっているような感覚があるんですよ。そこが一番、私は好きなところですね」。そんな櫨川さんは、家業としてブドウ園も経営している為、「かずら編みだけではなく、時にはブドウ畑でいらなくなったブドウの枝や老木を切って、オブジェなどを作ることもあるんですよ」と、その創作意欲はかずら編みだけに留まらない。「今は小さな額の中に、種や豆などの実を使って絵を描くアート作品に凝っているんですよ。これも余った実がもったいないという発想から生まれたのですが、それぞれの実の色や形を活かした絵は、本当に表情が豊かに仕上がるんですよね」。今後、「個展では、皮などかずらと合わないと思われる素材で、作品を制作してみたいんです」と夢を語る櫨川さん。その自由闊達な制作姿勢から生まれる作品は、かずら編みというジャンルさえ軽々と飛び超え、さらなる進化を遂げようとしていた。
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