大分の観光地、由布院産の乳製品を製造する「うらけん 由布院チーズ工房」のチーズ職人・浦田健治郎さん。2001年に酪農の仕事からチーズやヨーグルトなどの乳製品製造業に転職。以来、研鑚を重ね製造されたマットネロッソが、2009年度の「オールジャパン・ナチュラルチーズ・コンテスト」のウォッシュタイプ部門で農林水産大臣賞を受賞。東京以西では初の最高賞の栄誉に輝く。「北海道や信州などと違い、九州は酪農のイメージがないのですが、私の他にも地道に酪農やチーズ製造業で頑張っている生産者は沢山います。そんな酪農が弱い九州の人間として、初めて日本一の賞を貰えたことはとても嬉しかったですね。今はそんな九州のチーズ生産者とローカル・チーズネットワークを作って情報を共有し、九州産の乳製品を盛り上げようと活動しているのですが、この賞が我々の大きな励みになったと思います」。表面にリネンス菌をかけ塩水で洗いながら約2ヶ月間熟成させたそのマットネロッソは、ウォッシュタイプならではの発酵によるカビの匂いは控え目で、生乳の甘味と酸味、塩分の調和が絶妙にとれている。「私の作るチーズは、万人受けするチーズではなく個性的なチーズが多いと思います。以前、デパートの催事に出店した時、一人の外国人が全ての店で試食をした後に、私の店でチーズを買って帰ったんですよね。その時に、周りから“やっぱりね”と言われたくらい個性が強い...。私のように一人でチーズを作っていると手間がかかりますよね、そうすると大量生産のチーズに比べて、どうしても単価が高くなってしまいます。そうすると値段の高いチーズが普通のチーズと同じでしたら、お客さんは買いませんよね。やはり個性的なチーズというのか、クセのあるチーズで、『このチーズだったら、この値段でもイイよな〜』と思わせるチーズじゃないと生き残れないですよね。ですから小さな工房は、やはりオンリー・ワンを作っていかないと生き残れないと思うんですよ。手間隙かけて作る以外にないし、値段のところで大手とは競争できないから、大手とは違う味を作るというのが大事ですよね」。言い換えれば、それは大手には真似出来ない、手間隙をかけることが出来るということ。その唯一、最大の武器を手に、オンリー・ワンならず、日本でナンバー・ワンのチーズを生み出した浦田さん。その手間隙の結晶であるマットネロッソは、鮮やかなピンク色に輝いていた。「チーズは気温、湿度などによって一定の味を作り続けるのが難しいんですよ。賞を頂いたことに満足するのではなく、今後は、この味と同じモノを作り続ける技術を、もっともっと磨かなければならないと思っています。また、日本人はチーズといえば、酒のつまみとして楽しむか、ピザにかけて楽しむかくらいですよね。今後はそのようなチーズだけでなく、料理に使えるチーズを製造するなど、チーズ文化の裾野を広げる活動も行いたいですよね」。
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