JR九州の駅弁ランキングにおいて、見事2年連続1位に選ばれた「百年の旅物語 かれい川」を製造する「森の弁当 やまだ屋」の山田まゆみさん。鹿児島県内最古の木造駅舎であるJR肥薩線・嘉例川駅で売られている、旅情溢れる山田さんの考案した駅弁は、竹皮製の弁当箱の中に、“ガネ”と呼ばれる薩摩芋入りの天ぷらやコロッケ、椎茸と筍をのせた炊き込みご飯が詰められており、素朴で懐かしい味わいが特徴。薩摩黒豚のような特別な素材は一切使われていない。「現在のお弁当を作ろうとすると、黒豚や黒毛和牛などを使うのでしょが、100年以上の歴史を誇る嘉例川駅が、本当に趣のある駅舎ですので、お弁当も今のモノではないだろうと思ったんですよね。100年前の旅人たちが食べていたような、地元ならではの懐かしい食材を使い、この駅弁を考案しました」。嘉例川駅の弁当は、九州新幹線鹿児島ルートが開通した2004年、妙見温泉振興会が公募。山田さんの弁当は、ホテルや旅館の豪華な弁当を抑えて選ばれた。炊き込みご飯は山田さんが母親から受継いだ味。ガネは近所のおばさんたちの直伝。どれも地元の家庭料理である。「地元の農家の人が心を込めて作った野菜を使っていますから、1位に選ばれた時は、その人たちも一緒に褒められたようで、とても嬉しかったですね」。お弁当屋さんのお母さんというイメージそのままの...温かく優しい雰囲気の山田さんの弁当への想いは、人気弁当となった今も昔と変わらない。「最初は1人で作っていたので30食でスタートしたんですよね。今は忙しい時は、お手伝いを頂いて200食を作っているのですが、自分は30食作っても、50食作っても、100食作っても、200食作っても、お客様が手にするのは1個ですから、常に1つを手にするお客様のために、ちゃんと作らないといけないと…それは変わらないです。たくさん作るからといって、大雑把にしてはいけないというのは、変わらずにやってますね」。よく数やスケールでモノを考えてしまうが、山田さんは何百食作っていても、1個1個...ただ30食に込めていた想いと同じ想いを今も弁当に込める。100年の駅舎で売るに相応しい弁当として、その気持ちまで美味い。何と贅沢な...旅を演出してくれる駅弁だろうか。
| 前のページ |