大分市の住宅街の一角に工房を構える『手縫い革製品 クラウド』の土屋タカシさん。素材に合わせた最適なテンションで、きれいで丈夫なステッチが表現できる手縫いにこだわり、財布や手帳、鞄などの革製品を製作。手縫いならではの美しさと緊張感を纏った革製品たちは、独特な雰囲気と存在感を放っている。
「もともとバイクに乗っていたので、バイクの付属品としてある革製品に興味があったんですよね。そんな頃に使っていた財布が古くなって、新しい財布に変えようと思ったんですが、自分が欲しいと思える商品がなかったんですよ。それだったら自分で作ろうと考えて、通信講座で学び、革製品の製作を始めたという訳です」。そうして仕事の傍ら、趣味で革製品を作り始めた土屋さんのもとには、やがて評判を聞きつけた友人たちから注文が入るようになっていったという。
「少し革製品作りに自信を持ち始めた頃に、東京の職人さんに会いに行ったんですが、そこで見せてもらった鞄に衝撃を受けて、プロとアマの違いを思い知らされたんですよ。その鞄は本当に芸術品と呼べる程に美しく、圧倒的な存在感を放っていたんですよね。それまで自分なりのこだわりを持って革製品を作っていたんですが、それが遊びだったことに気付かされたんですよ」。その後、大分に戻った土屋さんは、仕事を辞めて革製品作り一本でやっていこうと決意。13年前に自らの工房を開いたという。
「日本語に訳すと雲という意味のクラウドという屋号は、自由自在に形を変える雲のように、自分も革を様々な形に変えて製品を作っていこうという想いで名付けました」。そんな土屋さんの革製品には、見えない部分にも様々な工夫が施されている。
「手縫いにこだわっているので、手縫いのところだけ注目されがちなんですが、入手できる限りの上質な素材を使うのは当然として、実はバッグの持ち手の芯にも革を幾重にも張り合わせたモノを使ったり、1ミリ単位で厚さの違う革を適材適所で使い分けたり、見えない部分にも様々な工夫を施しているんですよ。僕は立体になった時に、どういう風に作れば美しく見えるのかということを常に意識しているんですが、そういう美しさは表面ではなく、内側から出てくるモノだと思っていますからね。結局、見える部分だけ丁寧に作っても、中身が雑だと型崩れもしますし、トータルで気をつけていないと雰囲気に表れると信じています」。その人を惹きつける雰囲気は、ただ手縫いで作れば生まれてくる程、簡単なモノではない。人も製品も、本物の美しさは、その内側まで磨いてこそ輝きを放つことを土屋さんの仕事は教えてくれた。
「やはり時間をかけて、きちんと完成を見据えて色々と手を加えた製品というのは、独特の雰囲気と緊張感がありますからね。本物の美しさとは、そういうすべての部分を大事にした上でこそ生まれるモノだと思っています」。そんな土屋さんの仕事は、オーダーがメインだという。
「自分の作りたいモノだけを作っていれば仕事は楽かも知れませんが、技術の進歩がありませんよね。僕はお客さんと雑談を重ね、その中からヒントを得て、お客さんのイメージに合った製品を作るように心がけているんですが、そうやって新たなモノにチャレンジしていく仕事は、自分自身の技術も高めてくれますからね」。今後は、「製品を見ただけで、その製品が、誰が作ったモノなのか分かるような職人になりたい」と語る土屋さん。座右の銘である『継続は力なり』の言葉を胸に歩む土屋さんの作る革製品が、唯一無二の雰囲気を纏った土屋ブランドとして確立する日も近い。
「最初は趣味でやり始めたんですが、その時から革のことが好き過ぎて、寝ても覚めても革のことしか頭にないんですよ。とにかく革が大好きで、革バカなのかも知れませんね(笑)」。
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