匠の蔵~words of meister~の放送

荒木陶窯【陶芸 鹿児島】 匠:荒木幹二郎さん
2012年09月15日(土)オンエア
薩摩焼の古流派の一つである『苗代川焼』の技術と伝統を今に伝える数少ない陶芸家『荒木陶窯』の陶工、荒木幹二郎さん。『薩摩焼』の主流だった重厚かつ野趣溢れる『黒もん』は、『苗代川焼』系の陶工たちが完成させたと言われているが、江戸時代より続く『荒木陶窯』は、その代表的な窯元として知られる存在。15代目にして70年余りの作陶歴を誇る荒木さんは、日用品としての『黒もん』の他、深緑色の素地に葉文様がデザインされた焼物に代表される、窯固有の天然釉薬を用いた格調高い作品も数多く手がけ、平成19年に『端宝単光章』を受賞。また、『現代の名工』にも選ばれるなど、薩摩焼界の重鎮として名を馳せている。「なぜ陶工作家になったのかとよく聞かれますが、それはここに土があったからとしか答えられません。なすがまま、あるがままに今も土をこねています」。土木技師だった父の仕事の影響で満州に生まれ、戦後、母の実家の家業であった窯を受け継いだ荒木さん。これまで、その人生のすべてを作陶に捧げてきたという。「陶芸作家として一番大事なことは、とにかく作ること。作りに作り続けてきた時間なんですよ。飛行機の操縦士が滞空時間でその技術を語られるように、陶芸作家も対ろくろ時間が大事だということなんですよね。陶芸作家の中には、偉そうな理屈を語る人もいますが、そんな言葉は何の価値もかりません。とにかくそんな暇があったら、作れということです」。83歳となった今でも、毎日ろくろの前に座り続け、その気の遠くなるような年月をかけて、研ぎ澄ましてきた技術の結晶を、言葉で飾り立てても無意味なこと。荒木さんの言葉は『ごちゃごちゃ言う暇があったらやれ』と、人生のエールのように力強く心に響く。「そもそもモノを作る人に言葉はいりませんよね。作ったモノが語ってる訳ですから。どんなに上手い言葉で飾り立てても、作ったモノがそれだけのことを語っていなければ、何にもなりませんからね」。そんな荒木さんは、ろくろの前に座る時、ある感覚を大切にしているという。「僕は土ですよね、焼き物の土にならなければいけない訳ですよ。そうして、自らが土と一体となった時、馬鹿みたいな話ですけど、『もう少し、ここを膨らませてくれ』と、土が言ってるような気がするんですよね」。それは陶芸家の極致に達した荒木さんだからこその感覚かと訪ねると、荒木さんは「極めてないから毎日、ろくろの前に座り続けているんですよ。毎日、工房に行って作り続けないと具合が悪い」と笑う。そんなどこまで歩んでも不満足を貫くその姿勢がある限り、83歳の荒木さんの作品は、まだまだ進化し、さらなる輝きを放つ。「来年、個展をやろうと思っているんですよ。でも、そこに展示する作品は、これまでの作品ではなく、83歳の今の自分が作った作品じゃないといけないでしょう。それで、今もその個展に向けて、作品を作ってるんですよね。もう隠居してもいいのではと言われますが、まだまだ作られてください。まだまだ作りたいんですよね」。そう楽しそうに語る荒木さんは、まるで初めて土をこねる少年のような眩しい笑顔をしていた。

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