小麦粉を丹念に練り上げ、そこから取れる少量のグルテンが元となる生麩。もちもちとして、それ自体に味はないが、出汁など合わせるモノによって、様々な深い味わいを生み出す。現代では、主に精進料理などに用いられている生麩は、昔はポピュラーな食べ物ととして、各家庭の食卓を彩っていた。熊本市内で、創業300年を越える歴史を重ねる生麩の専門店「麩屋氏助」。昨年、創業以来、暖簾を掲げていた場所を離れ、新たな場所で再出発を図ったそうだ。オーナーの小場幸子さんは、「様々な理由から再出発した事によって、自分の気持ちの中にも変化が起きた。」という話をしてくれた。「一時期はね、お店の歴史を守る事だけだったんですよね。でも、新たな場所で再出発した事によって、仕事だけを一生懸命、守っていけば、後はどうでもいいかなって思えるようになったんです。家をしょってるっていう、鎧を外したら、違った方向に頑張れるかなって。それが、また子供たちに繋がっていくと思って、今は、子供の頑張りを楽しみに見ています。」小場さんは、現代人には馴染みが薄くなってしまった生麩を、もっと広く知ってもらうために、生麩を味わう喫茶スペースや、新たな料理法の研究などにも取り組んでいる。そして、それは、家族によって引き継がれてきた歴史ある「麩屋氏助」の伝統が、新たに生まれた瞬間だったのかも知れない。
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