武雄市の郊外に工房を構える陶彩画家、草場一浩さん。『陶彩画』とは、草場さんオリジナルの芸術で、『有田焼』の手法を用いながら、独自の発想と工法で完成させた焼物の絵画。白い陶板に釉薬で絵付けを行なうが、一度焼き付けをしては焼成し、さらに上から違う色で絵付けをしては焼成しと、十数回にも及ぶ窯入れを繰り返しながら、絵を描いていくという。
「27年前に陶彩画を始めた当時、焼物の世界では釉薬を重ね塗りすることはタブーとされていました。それは窯入れを行なうと、釉薬が剥がれてしまう為なんですよね。ですから最初は数多くの窯元に断られましたが、『葉山有樹窯』さんのみが『面白い』と言って下さり、『有田焼』の勉強をしながら『陶彩画』の研究をさせて頂きました」。その後、15年もの年月を費やし、ようやく光を見出したという草場さん。しかし、そこに辿り着くまでの過程は失敗の連続だったという。
「やればやる程、答えに近づいていく世界なんですよね。例えば、赤を出そうとしてコゲ茶色になっても、そこでコゲ茶色の出し方が分かるわけですよ。ですから失敗を失敗と思わず、失敗する中でデータを蓄積して色見本の数を増やしていく。まるで、錬金術師のような感覚でした」。そうして生まれた『陶彩画』が放つ、幻想的な色彩と宝石のような輝きは、まるで大自然が生み出す圧倒的な美しさと対峙したかのような感動を与えてくれる。
「『陶彩画』を描く上で大切なことは、どこまで火に託せるかということなんですよね。何度も窯入れを繰り返す『陶彩画』は、イメージ通りに完成したところで、あまり感動はないんですよ。しかし、火に託すことで、年に何回か火が自分のイメージを超えた感動を与えてくることがあるんですよ。そうやって自分が感動した、涙を流したモノを、共に見て頂いた方が、また涙を流して頂き、感動して頂くというのは、作家冥利に尽きますよね」。火に託す...それは人間の思惑の届かない世界だからこそ、匠は窯を炊く人間として、畏敬、畏怖の念をもち、謙虚な気持ちで自然と向き合うという。そんな自然は、その力を信じる者にしか微笑むことはない。
「託すというのは信じることですよね。自分の手を離れる訳ですから、祈りにも近い感覚なんですよ。先日、人工衛星『はやぶさ』を打ち上げて、戻ってくるところにいたスタッフの話を聞きましたが、『草場さん、最後はね、祈りしかないんだよね』って、やはり同じことを言っていましたよね」。
そんな草場さんは、「きれいな夕日や虹に明日への希望を垣間見るように、『陶彩画』によって生きる力を感じてもらうのが工房の理念」と語り、『陶彩画』を創作する傍ら、絵本作家としても活躍。ベストセラーとなった絵本『いのちのまつり』シリーズで、子どもたちに命を教えているという。
「いま生きている、命があるということは奇跡的なことなんですよね。ご先祖様の誰か一人でもいなかったら命は続いていきません。命は自分だけのモノではなく、ご先祖様全員が繋いでくれた尊いモノですから、『私たちは決して自分一人で生きているわけではないんだよ』ということを、子どもたちに伝えています」。その観る者の心に一筋の光を射す、自然と手を合わせたくなるような『陶彩画』は、そんな草場さんの人や自然に対する、大きく深い愛情の中から生まれてくるモノだった。
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