日本三大松原の一つ「虹の松原」の黒松の根元に自生するキノコ、松露の姿に似ていることから、時の藩主、小笠原候に名を賜ったという「松露饅頭」で知られる創業嘉永三年の老舗和菓子店の六代目、大原潤一さん。北海道産の小豆を使用したきめ細やかな良質のこし餡に、小麦粉、砂糖、卵から作ったカステラ生地をかけながら、一つ一つ手焼きで真心を込めて「松露饅頭」を製造する。「松露饅頭は、豊臣秀吉の朝鮮出兵(文禄の役)の後、高麗から陶磁器と一緒に渡ってきた文化の中にあった焼饅頭が原型となっています。その後、江戸後期に、当家の阿わび屋惣兵衛が焼饅頭に創意工夫を凝らし誕生しました」。まろやかな味わいと口当たりの「大原松露饅頭」は、今も唐津の定番土産として県内外の多くの人に愛され、現在では佐賀や福岡など十数店舗で販売。それでも大量生産に走らず、その製造を人の手に委ね続けている。「松露饅頭の製造は、どうしても機械では出来ないんですよ。細い針で刺し回しながら焼いていくのですが、その時に少し手を添える、もしくは餡子を投入した時に少し押さえてあげるという、微妙なレベルが機械化では無理なんですよね。同じように焼くタコヤキでもオートマチックで簡単に出来るモノを選ぶのか、それとも千枚通しでカリカリと焼いたモノを選ぶのかというと、やはり手で焼いたモノの方が美味しそうに見えますよね。それに、僕たちが儲けようと思って機械化したとしても必ず、お客さんにバレてしまうというか、ご指摘されると思うんですよね、何かしたなと。ですから、新たな指針などを打ち出すこともありませんし、やはり松露饅頭は変えてはならないモノだと思っています」。伝統あるお菓子には、当然、厳しい目を持つ長年のファンがついている。そのファンを満足させ続け定番となった松露饅頭の味は、これからもゆるぐことはない。「松露饅頭は、そのまま食べても美味しいのですが、凍らせる、油で揚げる、カステラの部分のみ先に味わうなど、お客さんは様々な楽しみ方をされているんですよね。これからも、松露饅頭を愛して下さっている、そんなお客さんの為にも、伝統の味を守っていかなくてはならないと思っています」。
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