匠の蔵~words of meister~の放送

佐土原人形店 ますや【人形店 宮崎】 匠:阪本兼次さん
2009年10月24日(土)オンエア
宮崎市佐土原町に江戸時代から伝わる佐土原人形を制作する「佐土原人形店 ますや」の人形師・阪本兼次さん。「お父さんとお母さんどっちが好き?」と問いかけられた幼童が、手にした饅頭を二つに割り「この饅頭はどちらがおいしい?」と問い返したという逸話を持つ「饅頭喰」に代表される佐土原人形の人形師としての道を定年後から歩み始めたという。「饅頭喰の他に、雛人形などでも知られる佐土原人形には、子どもの健やかな成長への願いが込められています。その願いを父の代で途絶えさせる訳にはいかないという事で、人形師の道を歩み始めました」。ゆっくりと時間が流れる工房の中で、一筆一筆、丁寧に人形の顔を描き、佐土原人形を生み出している阪本さん。その佐土原人形の魅力は土の素朴さと温かい彩りの調和だと言う。「私が佐土原人形の良さを理解したのは、仕事を始めて5〜6年経ってからですね。技術も高く繊細な博多人形の良さは、一目見ただけで分かると思いますが、田舎臭い佐土原人形の良さは、一目見ただけでは分からないと思います。しかし、よく観察をすると素朴さというか味があるというか、その温かい魅力がゆっくりと伝わってくるんですよね」。人は華やかなモノは、すぐ理解してくれる。素朴さやらワビとかサビとかは難しい。その人の経験や年齢などを通じ、徐々に分かるようになるものだ。往々にして、その魅力は華やかなモノに負けず、深く濃い。そんな佐土原人形を制作する技術は、シンプルに同じ事を繰り返す事で磨かれるという。「技術を向上させようと思うなら、とにかく回数をこなす事ですね。何回も何回も人形の命である顔を描き続ける...その繰り返しで、私でもなんとか描けるようになりました」。とにかく回数をこなせば、誰でもなんとかなると豪快に笑い飛ばす阪本さん。確かに回数をこなせば上手に人形を作る事が出来るようになるかも知れないが、それだけでは人を魅了する人形を作る感性は磨く事が出来ない。「線が細く綺麗だからといって必ず魅力的な人形になるだけではありません。線が太く少し曲がっていても、人形が出来上がった時にいいな〜と思うモノもあるんですよ。どこか癒されるというか、心が和むような人形が…。線を描いている時は気がつかないのですが、出来上がってから見ると、うわ〜これ良いな〜と思う事が今でもあるんですよね」。大正時代は14〜15軒の人形店が技術を競い合ったが、現在は阪本さんの店を含む2軒の人形店のみが、その技術を継承しているという佐土原人形。しかし、阪本さんはただ継承するのみではなく、饅頭喰、雛人形に続く新たな佐土原人形のスタンダードを作るべく奮闘をしている。「子どもの健やかな成長への願いが込められているのが佐土原人形です。本質は人形に込められた願いであって、形まで囚われていては面白くありませんからね」。

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