現在、日本に49ある『日本で最も美しい村』に認定されている湯布院の塚原で、自家栽培の牧草を与えて牛を育てる『竹内牧場』の代表、竹内正敏さん。搾りたての牛乳の他、アイスクリーム、ジャム、プリン、さらに料理などを提供する観光牧場を親子2代で営み、塚原の町興しにも尽力する。
「自家栽培の牧草は、現在主流の輸入干草と違い、農薬散布をしないので安心で価格も安いのですが、とにかく手間がかかるんですよね。百の仕事があるから百姓と言われるように、酪農は様々な仕事に追われる本当に重労働の世界なのですが、やはりいい草は牛が喜んで食べてくれますからね」。そんな『竹内牧場』は、終戦後に高知から開拓の為に湯布院に移住した竹内さんの父が、昭和40年代に始め、その後、竹内さんが2代目として受け継ぎ、牛の数を徐々に増やしていったという。
「20歳から40年間、酪農一筋で歩いてきた中で、最初はただ牧場を大きくすることだけを考えていたんですよね。しかし、いつしか牛乳を生産するだけの牧場経営に疑問を抱くようになり、当時の平松大分県知事が主宰する『平成塾』に入校したんですよ。そこで1次、2次、3次のすべてを自らの手で行なう6次産業に光を見出し、付加価値農業とも言われる観光牧場を始めたという訳です」。酪農の仕事を魅力あるモノとする為に、そして、自らも楽しめる仕事とする為に、どのような方法があるのかということを真剣に考え、自らの夢でもあった塚原の雄大な自然環境を生かした観光牧場という形を実現した竹内さん。その姿は、2人の息子の心にも大きく響いたという。
「息子たちは最初、牧場を継ぐことに消極的だったのですが、親父が面白いことをやっていると、子どもたちも興味をもってくれますよね。今では息子たちが観光牧場の担い手として頑張ってくれています」。そうして竹内さんは牧場内に『みるく村 レ・ビラージュ』をオープン。湯布院や久住の老舗旅館などで修行した息子たちが、自家菜園の野菜をふんだんに使った自慢の料理や、全国的に珍しい牛乳で作る『みるくジャム』などを提供しているという。
「現在、湯布院には年間400万人、隣の別府には1000万人の観光客が訪れています。そんな観光客をこの土地にも呼び込めれば、塚原の町興しにも繋がりますし、さらに人から見られる農業というのは、隠し事ができませんから、やはりいい仕事をするようになりますからね」。そんな竹内さんは塚原の横を走る高速道路に、観光客が訪れやすいようインターチェンジを誘致することにも成功。さらに3年前からは子どもたちを対象にした『酪農教育ファーム』を始めるなど、そのアイディアとバイタリティーは尽きることがない。
「『酪農教育ファーム』を始めた目的は、子どもたちに現場で教育したいという想いですよね。最初、牧場に来た子どもたちは挨拶もしないんですよ。しかし、牛舎に行くとスイッチが入るんですよね。そうして乳搾りなど色んなことを1日中楽しんでもらうと、帰る時に大きな声で『また来るよ〜』って、来た時と全然違う挨拶をしてくれるんですよ。やはり教育には感動がないと駄目ですよね。そうして感動した子どもたちは、学校で牛乳を残さなくなるそうですから、牛乳の消費拡大にも繋がりますしね」。過酷な仕事を自らの手で楽しめるようにし、立ち止まるどころか、さらに目一杯走り続ける竹内さん。やはり夢があると、人はこんなにも頑張れる。
「夢があると苦労が楽しくなるというか、自分がやりたいことですから苦労と思わないですよね。例えば山登りが趣味の人は、命をかけて山に登りますよね。それは金銭の問題ではなく、生きがいの問題ですよね。価値観の違いですよね。ですから、私は自分が生きた人生の中で、何か足跡を残してやりたいし、また自分の能力を、どこまで伸ばして行けるのか試してみたいと、常に思っています」。
| 前のページ |