玉名市の古い街並みの残る一角、歴史を感じさせる風情ある工場で、約70年も前から上質の椿油を製造し続ける『東製油所』の2代目、東早苗さん(75歳)。その椿油は天ぷらの高級店や料亭などで重宝される傍ら、美容液としても有名モデルの間でも愛用されている。「私どもは、自然のままの良さを活かそうと、昔ながらの『玉締め法』という製法で、椿油を搾っています。これは低圧で、ゆっくりと油分を搾り出す製法で、椿の持っている持ち味を、そのまま活かした素直な油が摂れるんですよね。ただし、労力はいるし、能率は悪いし、おまけに歩留まりも悪い為、今では日本全国でも数軒しかこの製法を続けていないと思います」。それは椿の種子20キロから2升弱しか摂れないという古式製法。粉砕し、蒸らした椿の種子を特殊な布に巻き、軽い圧力で搾る為、12%の油分を残してしまうが、その分、純粋な椿油のみを搾取することが出来るという。「同じ分量の原料でも、機械を使った製法と比べて摂れる量が少ない為、大手では決して真似できない製法だと思います。私どものような小さな製油所では、機械を使った量で大手と対抗しても勝負になりませんので、だからこそ品質に特化することが大事なんですよ。ウチにも機械はあるのですが、それは決して椿には使いません。なぜなら、古いやり方に戻ること...それこそが小さな製油所が生き残る術であるのと同時に、品質を落としたくないという職人としての誇りを守る方法だと思うからです」。効率を捨てても得るものがある...そう信じ、非効率を貫き通す東さんの笑顔は、職人の誇りに満ち溢れている。「椿油は驚くほど淡白な香りで嫌味がまったくないので、胃もたれしないと言われています。特にカボチャを椿油で炒めると、甘味が増し、本当に美味しいんですよ。ただし、食用としては値段が張るので、最近ではエステサロンのベースオイルや化粧品として使われる方も多いですね。化粧品と考えたら椿油ほどリーズナブルな商品はありませんからね。化粧品としては、モデルさんたちの他、京都の舞妓さんたちにも使われているそうですから、今後はブランドとして加工品を手がけることも視野に入れています」。現在は3代目の息子さんが、日々、東さんの下で汗を流しているそうだが、その息子さんの口癖は「自分の代になって品質が落ちたとは言われたくない」だということ。そのとことん品質に特化した『東製油所』の椿油は、様々な可能性を秘めて、今後も、さらに多くの人たちに愛されていくことだろう。
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