ざわわと葉を揺らすサトウキビ畑に囲まれた、眼下に沖縄の海を望む読谷村の丘の上に工房を構える「陶器工房 壹」の陶工・壹岐幸二さん。日用雑器としての“やむちん=沖縄の焼物”を制作する傍ら、沖縄の自然を表現した大陸の文化の香る芸術性の高い“やちむん”の制作も手掛けている。「形というのは、その地域に生まれた形というのがあるんですよね。それは景色であったり、自然であったり、光であったり、あるいは土の特性…挽きにくいとか、挽きやすいとかであったり、基本的な形というのは地域で作られていくんですよね。また、沖縄は文化的に中国の影響を受けていますので、そういう部分を大事にしながら、自分の感性をプラスして制作しています」。和の文化の本場である京都に生まれながら、大陸の文化に魅了され沖縄で陶工の道を歩み始めたという壹岐さん。沖縄陶芸界にあって、伝統に裏付けされたゆるぎない技法を基に、積極的にコンテンポラリー・アート作品を発表している。「モノを作るということは格闘なんですよね。やはり一番嬉しくて楽しいのは、その格闘している時です。頭の中で自分は天才になってみたり、急に落ち込んで見たり、もがきながら作品に心血注いでいる時が一番楽しい…失敗するリスクや人に対してどう受け取られるのか? 思いのほか受けが悪くても自分は納得してるなど、色々な格闘がありますよね。逆に日用で使われる食器などは、長い目で安定した美を供給していきたいという気持ちですよね。アスリートのように日々、同じモノを繰り返し挽く事で技量がついて行く。ですから、そういう事もキッチリと出来る工房でありたいな〜と思っています」。大部分は、自分の仕事の土台を成す、安定したクオリティーを保てる仕事内容。ただ、どこかにチャレンジするような仕事の部分を持っておきたいものである。それが非常にいいバランスで作られた壹岐さんの“やちむん”は魅力的だった。「自分は作るのが勝負ですが、お客さんが買う事も勝負だと思うんですよ。例えば3000円出して作品を買う時に、3000円で買って本当に良かったな〜ていう時は目が勝っている訳です。ですから良い作品が買える。逆に3000円出したのに良くないと思った時は目が甘かったという訳です。それも真剣勝負ですよね」。
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